橋の亀裂やコンクリート片のはく落、道路の陥没などが相次ぎ、社会資本の劣化が大事故につながりかねないケースが増えている。

 顕在化する構造物の劣化を受けて調査や診断、補修工事が続々と発注されているのかと思いきや、補修工事などの発注は逆に減る傾向にある。

 国土交通省が2008年3月31日に公表した建設工事施工統計調査報告によれば、2006年度の維持・修繕工事の完成工事高は合計約13兆1000億円。増減はあるものの、ピークだった1996年度の約15兆9000億円に比べて18%減少した。

 なかでも公共機関が発注する維持・修繕工事は大幅に減少している。例えばここ5年間の推移を見ると、2002年度の約4兆3000億円から減り続け、2006年度は約3兆3000億円と2割以上の減少だ。

(資料:国土交通省の建設工事施工統計調査報告を基に作成)
(資料:国土交通省の建設工事施工統計調査報告を基に作成)

 2008年度に入っても、「新設工事と同様に、維持管理や補修の発注も減っている」と複数の自治体職員は話し、建設会社からも「『維持管理の時代』と言われて久しいが、実感はない」といった声がよく聞かれる。

 高度経済成長期に建設した構造物が更新時期を迎え、維持管理や補修の費用が建設投資に占める割合が大きくなることは確実だが、「発注量の増加」にだけ着目していては、「維持管理の時代」を実感することはできない。

 例えば維持管理や補修・補強の工事をきっかけとして、従来は見られなかった契約方式などが次々に採用され始めている(下の表参照)。自治体の財政難を背景に、社会資本の証券化や売買に向けた検討も本格化してくる。


 これらの試みは新設の工事や事業にも影響を与え、調達方法も含めた建設産業の生産システム全体を変える可能性を秘めている。「包括発注」や「複数年契約」、「性能規定」などの採用が進み、建設会社や建設コンサルタントの業態にも変化を促すだろう。

 発注量には表れにくいこれら足元の変化に目を転じれば、「維持管理の時代」はすでに始まっていることが、その本質と併せて実感できるに違いない。