夏休みに旅行などで地方を訪れると、多くの高齢者が目に付く。国土交通省が2006年に実施した調査によると、65歳以上が半数以上を占める集落が全国に7873カ所あった。

 こうした高齢化は、地方に限った問題と考えがちだ。ところが、「既に高齢化している地方よりも、これから高齢化が進む大都市の方が問題は深刻だ」といった指摘を取材で受けることが多い。

 国立社会保障・人口問題研究所によると、首都圏にある1都3県の人口の高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口の割合)は2005年時点で17%。高齢化が最も進んでいる島根県の27%と比べて10ポイントほど低い。

 しかし、首都圏では今後、「団塊の世代」の高齢化が一気に進む。20年後の2025年には、1都3県に住む65歳以上の人口は360万人増えて960万人に膨れ上がる。高齢化率は28%となり、2005年時点の島根県を上回る。

 大都市には若者が流入するから大丈夫、というわけでもなさそうだ。実際、1都3県の総人口は2000年から2005年までの間に95万人増えたが、20~59歳の人口は27万人減った。少子化の影響だ。

 大都市は今後、高齢者の急増による社会保障費の支出増と、働く世代の減少による収入減というかつてない窮地に追い込まれる。

 さらに、高齢化するのは人だけではない。大都市の機能を支えている道路や水道などの膨大なインフラも老朽化が進んでいる。インフラがひとたび寸断すれば、都市の機能はまひする。


北海道夕張市にある橋。14tの重量制限があり、大型車は1台ずつしか通れない。同市の2005年時点の高齢化率は39.7%で、全国の市では最も高い。インフラの更新に予算が追いつかなければ今後、大都市でもこうした橋が増える恐れがある (写真:日経コンストラクション)

 老朽化とは関係ないが、東京都内の首都高速道路で8月3日に起きたタンクローリーの火災事故は、周辺の一般道路でも大規模な渋滞を招いた。いみじくも“首都の動脈”が寸断した影響の大きさを露呈した。

 「財政収支が悪化してインフラを更新できなくなると、行き着く先は大都市のスラム化だ」。財政学や社会基盤学を専門とする政策研究大学院大学の松谷明彦教授はこう警告する。人もインフラも年を取る。超高齢社会を踏まえた都市政策とインフラの計画的な維持管理が欠かせない。