8月3日午前、東京都江東区の展示施設「東京ビッグサイト」の西展示場で、1階から4階に向かうエスカレーターが急停止し、乗っていた約50人が転倒する事故が起きた。10人が負傷し、救急車で病院に運ばれた。利用者は体のバランスを崩して、折り重なるように倒れた。

 5月9日にも名古屋市の市営地下鉄久屋大通駅で似たような事故があり、11人が転倒による軽傷を負っている。後の調査でエスカレーターにはボルトの破損が見つかり、それによって架台が数cmずれたことが事故の原因とされた。今回の事故では、重量オーバーの可能性が指摘されており、エスカレーターに不備がなかったかどうかを含め、調査が進められている。

安全のための急停止が別の大きな危険を生む

 筆者が気になるのは、エスカレーターを急停止させるのは危険ではないかという点だ。何らかの危険を回避するための急停止が、別の大きな危険を引き起こす恐れがあるからだ。また、エスカレーター自体に不備がなくても急停止することがある。しかも、こうした危険は身近で起きうるのだ。

 実は、筆者は数年前にエスカレーターの急停止を経験した。場所は、東京メトロ半蔵門線の永田町駅で、ホームからコンコースに向かう上りの長いエスカレーターだった。トラブルはエスカレーターに乗ってすぐ起こった。「ガツン」という鈍い音とともに急停止。不意打ちを食らった体は反動で前のめりになった。手すりにつかまっていたこともありよろめくだけですんだが、転倒していてもおかしくはなかった。逆走したかどうかは記憶にないが、逆走したとしても数cmだったと思われる。止まっただけなのに、まるで立っていられない地震に遭ったかのようだった。

 昼間にもかかわらずエスカレーターには大勢が乗っており、止まった瞬間にどよめきが響きわたった。転倒した人はいなかったようだが、もし将棋倒しになっていたら、エスカレーターが長いだけに恐ろしい事態になっていただろう。

 後ろを振り向くと、急停止の原因がわかった。女性が羽織った衣服のすそが挟み込まれていた。エスカレーターが機械的に感知して止まったのか、誰かが緊急停止ボタンを押して止まったのか――。様子をうかがおうとしたものの、皆がエスカレーターを登りだし自分だけが立ち止まっているわけにもいかず、立ち去ることにした。

 トラブルを経験するまで、ぼんやりと「止まる=安全、動く=危険」と思い込んでいた。それだけに想定外の出来事について、あれこれ考えさせられた。

安全に利用する呼びかけも不可欠

 恐らく、永田町駅のエスカレーターに不備はなかったのだろう。とはいえ、衣服を挟み込まれた利用者の被害を軽減するための急停止が、別のもっと大きな“二次被害”を生じさせる恐れがあった。徐々に停止していけば二次被害は起きないのかもしれないが、例えば足の指を挟まれたなどの場合には、被害が大きくなってしまう。結局、急停止が必要になるのだろう。

 そもそも、利用者の不注意による急停止をなくすため、エレベーターには安全を促す様々な策が施されている。例えば、ステップの縁は黄色く着色されており、挟み込みを未然に防ぐよう視覚的に訴えている。最近では、下の階から上の階までつながった長いブラシをスカートガードに設置したエスカレーターを、JR東京駅で見かけた。ブラシは足首の高さにあり利用者側に向けてあるので、立ち位置が端に寄りすぎるとブラシが足首をこすって注意を促す仕組みだ。今後も様々な策が盛り込まれるだろう。

 それでも、不注意を完全に防ぐのは難しい。従って、急停止を完全になくすこともできないだろう。機械的な不備をなくすのと同じくらい、安全に利用することを呼びかけることが重要になるのではないか。

 利用者からしてみると、安全に利用したくてもかなわないケースがある。例えば通勤時間帯に混雑する駅では、次々に到着する電車から降りる人をホームに溢れさせないよう、エスカレーターに乗る際には前の人との間隔を詰める必要がある。それを利用者にお願いしている掲示もある。しかし、エスカレーター上では人の密度が高くなるほど危険性は増す。

 であるならなおさら、エスカレーターを製造する側、管理する側は、利用者に対して安全な乗り方を呼びかける必要があるように思う。もしもの場合の被害を広げてしまってはならない。