皆さんはA-cupというサッカーの大会をご存知だろうか。建築学科の学生などを中心に、毎年600人を超える建築関係のサッカー愛好家が集まる全国規模のイベントである。A-cup のAは、Architecture(建築)の頭文字を取ったものだ。第7回を迎えた今年も7月6日に、北は仙台、南は大阪から茨城県波崎のグラウンドに24チームが集結した。


開会式の様子。600人を超える選手がストレッチで身体をほぐす

“建築家の卵”たちがフラットなフィールドで球をつなぐ

大会中に各チームの代表者が色紙にA-cupへの想いを記す

 筆者も“狂”が付くほどのサッカーフリークなので、第1回大会から毎年参加している。近年は、建築よりもサッカーの方が詳しいこともあって、決勝戦の笛を吹かせてもらっている(自チームの戦績がふがいなく、決勝には絶対残らないということも理由の一つだが…)。チームの力が均衡してきたこともあって、今年はPK戦で決着が付く試合が多かった。各チームを率いる、名の知れた建築家たちも、「はずせば負け」という緊張感の中で、周囲の期待通りにユニークなプレーを披露していた。

 A-cupのすばらしいところは、ガチンコのサッカー大会ではないところだ。出場する学生たちの中にはサッカー未経験者も多い。ゼミの合間を縫って球けりを始めた選手がいっぱいいる。A-cupのローカルルールも気が利いている。ピッチ上には必ず一人以上、女性か中学生以下の子どもが出場していなければならない。その結果、老若男女が入り乱れてフィールドで球を追う。そして、試合に勝てば狂喜乱舞。試合に敗れるとピッチに泣き崩れる。

 そうしたシーンを見ていて改めて確信したことがある。建築や都市を考えるうえで、サッカーは大きなヒントになるということだ。サッカーは人の間に垣根を作らない。W杯の観戦などで世界中を飛び歩いてきた筆者も、老若男女を問わず気軽に話ができたのは大概、サッカーボールを持っていたときだった。二十歳前後の“建築家の卵”たちと、お互いのビジョンをぶつけ合うことができるのも、A-cupというフラットなフィールドがあればこそだと実感している。

 建築や都市の計画をまとめていくときに大切なのは、年齢や性別、国籍といった垣根を越えてコミュニケーションを図ることだ。そうしたときにフラットなフィールドでボールをつないでいく思考は、必ず役に立つ。UCLAで芸術、建築学部 都市・建築学科のチェアマンを務める建築家の阿部仁史さんが、A-cupのたびに「フラット・フィールド」を連呼していたのも、こうした思考の大切さを伝えたかったからに違いない。7月5日の深夜に5万円を支払って、タクシーで東京・渋谷から波崎まで駆け付けた、滋賀県立大学教授の布野修司さんも、7月6日には二日酔いにもめげず、フラットなフィールドとボールに想いを馳せ、大活躍していた。