ウェブサイトやブログを見た人からメールで問い合わせがあり、何度かやり取りした後、設計業務の契約に至る――。こんなインターネット経由の受注が増えているという話を、建築設計者から聞いた。

 石川県内で、主に住宅や店舗設計を手がけるトイットデザイン代表の戸井建一郎氏は、「1年間に契約する設計業務の5割以上は、事務所のウェブサイトを見た人からの受注だ。『自分たちの求めている建物と同じセンスを感じた』といった理由で、電子メールを送ってきてくれる。今では、ウェブサイトが重要な営業ツールになっている」と打ち明ける。

 本拠地の広島県内はもちろん、関東や四国など全国で活動するサポーズデザインオフィスの谷尻誠氏も、「電子メールでの問い合わせが1カ月に2~3通届き、受注につながる率も低くない」と語る。そこには、ブログが大きな役割を果たしている。「設計に対する考え方などをブログに書き込んでおけば、その内容に共感した人だけが連絡をくれるようになる。せっかく打ち合わせの時間を設けたけれども、結局、考え方の違いで仕事につながらない、という事態を減らすことができる」。

 2~3年前は、「事務所のウェブサイトを立ち上げても、軽い気持ちで電子メールを送ってくる人が増えるばかりで受注につながらない」と話す設計者が多かった。潮目が変わってきたのは、ここ最近だろう。変化を感じている設計者の声を実際に耳にする。ある設計者は、「若い人を中心に、インターネットで情報を収集し、電子メールで設計者に連絡を取るという流れができているようだ。こうした発注者を、ウェブサイトが充実している若手設計者に取られているように思う。うちの事務所もウェブサイトの質を上げなくてはいけない」と話していた。

 「良い建物を設計して実績をつくり、発注者の信頼を得ることが最大の営業」という事実は揺るがないだろう。こちらが王道であり、大多数でもあるに違いない。しかし、ウェブサイトを見た人からの受注が増えている設計事務所が現れているのも事実だ。そろそろインターネット経由での受注に本腰を入れるべき時期に来ているのではないだろうか。