「国土交通省の発注案件は、技術の勝負になっている」。ある建設会社の幹部はこのように話す。国交省では、価格と技術で落札者を決める総合評価落札方式の入札が一般的になっている。本来ならこの二つの要素を勘案した勝負になるわけだが、先の幹部によれば、各社の入札金額が低入札調査基準価格付近に集中して差がつきにくい状況で、技術提案の内容を高めなければ勝負にならないのだという。

 準大手以下の建設会社に話を聞くと、技術者の確保に頭を悩ませているところは多い。総合評価落札方式の入札に参加するための要件として求められる同種・類似工事の経験を持つ配置技術者のやり繰りがたいへんなのだという。限られた技術力をどの地域のどの入札案件に投入するのかについて、本社でコントロールしている会社もある。そのような会社では、支店が売上目標を達成したいと考えて手を上げたとしても、全社的な判断から「待った」がかかることもある。

 こんな話も聞いた。

 「ただでいいから置いてもらえないか」。あるJV(共同企業体)で、構成会社が自社の社員に経験を積ませたいと考えて幹事会社に現場への派遣を申し出たところ、幹事会社では既に技術者が足りていたので断った。その際に、構成会社の担当者の口から出たのがこの言葉だ。

 総合評価落札方式の入札に参加して落札するために、このようにある程度のコストをかけても、入札要件に合った資格者を早く育て上げたいと考える会社は結構あるのだろう。JVの構成会社でも、若手が勉強できる機会があればそれを利用したいと思うのは当然だ。しかし幹事会社からすれば、JVを離れれば別の入札で競合する可能性のある会社の申し出に、「ああそうですか」と答えるわけにはいかなかったのかもしれない。

 技術提案を重視する入札を歓迎する声は、会社の規模を問わず聞こえてくる。しかしその多くは、技術力のある会社の声なのか。「ただでいいから――」。この言葉に、今後の技術競争のさらなる厳しさを感じた。