ケンプラッツのニュースでも紹介したとおり、(財)建設物価調査会が創立60周年を記念して「建設物価の60年」を発行した。主要建設資材の価格推移、主要10資材の建材知識、建設分野を取り巻く10年後、参考資料編などで構成されている。建設産業の現状を知り未来を読むうえで、参考になる情報が盛りだくさんである。

 なかでも、人口、不動産、建設、住宅、鉄道などの分野について7人の識者が執筆した「建設分野を取り巻く10年後」が関心を引いた。マクロの視点をベースに、市場の先行きを予測している。何人かの識者は現在を「歴史的な転換期」と位置づけた。長年保たれてきた需給のバランスが崩れ、仕事の進め方が大きく変化するということであろう。

 では、どんな未来が待ち受けているのか。冊子を参考にしながら、私なりの視点でポイントをまとめてみた。

 日本の建設産業は今後、大きな成長を期待できない。建設投資のうち、政府投資が拡大する根拠は乏しいし、新規住宅着工も人口減から長期的には減少すると見込まれる。一方で、オフィスなど民間非住宅の投資は、日本経済と連動性が高い。都心部に限れば、優良な資産を求めるマネーが引き続き流入し、大規模ビルを借りる需要も堅調といえそうだ。そして都市と地方の格差は、今後も拡大していく可能性が高い。

 トータルでは大きな成長が見込めないなかで、投資の拡大が見込める分野もある。インフラの機能を維持するための投資、高齢者の生活を豊かにするための投資、住宅の長寿命化のための投資、地震に対する安全性を向上させるための投資、省エネやCO2削減につながる投資、既存建物の収益力をアップさせるための投資――などである。

 既に言われてきたことも多いので、読者にとっては周知の事柄かもしれない。私自身はこの予測を読んで「やはりそうなるのか」と、認識を強くすることができた。ひとことでまとめれば、これから起きることは、量重視から質重視への変化である。つまり、質を提供できる者が選ばれるということだ。

 国立社会保障・人口問題研究所の石川晃氏は、この特集のなかで次のように記している。「10年後に生じる問題は、その時点で対処しても既に遅い場合が多い。そのようなことからも、今後5年間あるいは10年間の政策や対策は、日本の進路を決める上で極めて重要であるといえる」。

 転換期にある建設分野の企業のかじ取りも同じであろう。