東海道新幹線のバイパスとして位置づけられているリニア中央新幹線。このビッグプロジェクトを全額自己負担で推進・実現する方針を、JR東海が2007年12月25日に発表した。建設関連で注目すべきなのは、困難が予想される南アルプス(赤石山脈)の貫通を前提とした建設ルートを、同社が想定していることだ。果たして、リニア中央新幹線は南アルプスを貫通できるのか、問題点を整理してみる。

 まず、南アルプスの山脈が高いことが挙げられる。標高3193mの北岳を初めとして3000m級、2000m級の山々が南北方向に立ちはだかっている。この“壁”を東西に貫通する幹線道路や鉄道は存在しない。

 一帯は地層が複雑だ。東側には糸魚川静岡構造線、西側には中央構造線と、有数の断層がある。南アルプスは海が隆起してできた山脈であり、隆起は現在も続いている。所々に亀裂が走り、崩壊も起こるなど、地質が不安定な面もある。トンネルを掘削するとなれば、大量の湧水、崩落・変形など不測の事態も予想される。

 掘削時のリスクを減らすために、トンネルをなるべく短くする方策が考えられる。そのためには、なるべく標高の高い地点まで地上部を走らせる必要がある。カーブの半径は、山梨リニア実験線と同じく8000m以上にすることが予想され、山すそに沿ってくねくねはい上がっていくような路線が敷かれることはありえない。ほぼ直線になるのであれば、トンネルの前後に大規模な高架橋が造られる可能性がある。

 リニアモーターカーは幸い、軌道との摩擦に頼らず加速するので、従来の鉄道に比べて勾配に強い。現行の新幹線で勾配が最もきついのは、長野新幹線の高崎-軽井沢間で、30パーミル(3.0%)だ。これに対し、山梨リニア実験線には40パーミル(4.0%)の勾配がある。現行の技術でも高低差はいくらか克服できる。

 自治体の思惑も問題を複雑にする。沿線の9都府県で構成するリニア中央エクスプレス建設推進期成同盟会は、南アルプス貫通ルートではなく、北側に迂回(うかい)して諏訪湖付近を経由するルートを求めている。民間企業が発注する工事とはいえ、様々な面で自治体の協力が不可欠になる。ルート決定の際には、政治を巻き込んだ駆け引きが繰り広げられると予想される。

 環境への配慮も重要になる。手付かずの自然が残る南アルプスにトンネルを掘ること自体が自然破壊だという意見が、少なからず出てくると思われる。

 紆余曲折が予想されるものの、南アルプスの貫通という大きな夢には興味が尽きない。JR東海は既に、山梨県早川町と長野県大鹿村で地形・地質調査を開始している。同社の目標は、首都圏から中京圏までの約290kmを、2025年までに完成させることだ。老朽化が進む東海道新幹線を大規模修繕するための代替路線として必要だと位置づけている。プロジェクトのゆくえを見守りたい。