「40社77件の大臣認定に不正取得などの疑義があるとの報告があった」――。1月8日に公表された国土交通省の「防耐火関連の構造方法等の認定に関する実態調査」の結果は、筆者の想像を超える、計り知れないほどの大事件になりつつある。

 昨年末に性能評価試験の不正受験が発覚したニチアス、東洋ゴム工業の2社にとどまらず、業界の至る所で不正が横行していたことが明らかになった。性能評価試験を不正受験していたケースが新たに3社7件で発覚したほか、取得した大臣認定の仕様を守らずに製品を製造、販売していたケースが15社38件の認定で見つかった。いずれも姉歯事件のように「特定の個人」が引き起こした不正ではなく、「組織」として不正を働いた。決して姉歯事件を軽く見るつもりはないが、社会的には姉歯事件以上に根が深い問題と言わざるを得ない。

 姉歯事件と違って、長きに渡って大臣認定の不正利用が繰り広げられてきたことも深刻だ。イトーキの報告では、31年前から不正販売をしていた事実も明らかになった。同社は大臣認定を取得した直後に、顧客であるゼネコンの要望に応じて、認定とは違った仕様の製品を製造し、再認定の申請をせずに不正に出荷していた。四半世紀をも超える間、誰も大臣認定の虚偽にメスを入れてこなかったことは、報道に携わるものとしても口惜しい。

 被害に遭った建物がおびただしい数に上っている点も深刻である。ニチアスの軒裏天井材だけで、少なくとも4万棟を超える住宅がすでに被害を受けている。新たに発表された40社77件の不正がどれだけの被害をもたらしているかは、実態を調査中の企業が多く、まだ判然としていない。今後ヒアリングを実施するとして社名が公表されていない23社の32件の認定をはじめとして、“水面下”の企業の不正によって被害はさらに拡大する。トータルでどれだけの被害を及ぼすのか、考えるだけで恐ろしい。

 姉歯事件以上に悩ましい問題も横たわっている。不正があった建材が、どこの建物に使われているか、特定しにくいという問題だ。設計者が仕様書に同等品と記した場合、製品の選定は施工者任せになるので、多くの設計者は製品を特定できないでいるという。施工者にしても採用した製品ごとに台帳をまとめているわけではない。「設計図書どおりの製品を採用していないケースも多いので、専門工事会社に発注した注文書を端からチェックするしか方法がない。確認作業は姉歯事件のときよりも大変だ」と悲鳴を上げる。

 ゼネコンや住宅メーカー向けに直接、出荷した製品ならば、メーカー側も把握できるだろう。しかし、一般市場向けに出荷した製品は、問屋など流通を介しているため、それこそどこの建物に使われているかほとんど把握できないでいる。流通サイドで卸し先をどれだけ把握しているのか――。特定するには問屋などの協力が不可欠になる。近年、ICタグなどを活用した建材のトレーサビリティーの重要性が叫ばれているが、その重要性が偽装事件で図らずも浮き彫りになったといえよう。

 果たして大臣認定偽装事件は、どのように幕が引かれるのだろう。姉歯秀次元一級建築士は刑事罰に問われた。偽装した企業にはどんな処罰が課せられるのか。ニチアスの不正発覚後の会見で冬柴鉄三国交相は、「詐欺罪の適用」も視野に入れた発言をしていた。しかし、現時点でそうした動きはまったく見られない。企業の経営責任を問う株主代表訴訟などに展開していくのだろうか。不正の発覚は今後も後を絶ちそうにない。深刻な事件の先行きは不透明なままだ。