米国ミネソタ州で2007年8月,ミシシッピ川に架かる州間高速道路35W号線のトラス橋が崩落して,13人が死亡した事故は記憶に新しい。日本ではその1カ月半ほど前の6月,三重県にある国道23号の木曽川大橋で,コンクリートの床版に覆われたトラスの斜材が腐食して破断したが,死傷者はなかった。

 米国の橋が崩落した一方,日本の橋が崩落しなかったのはなぜか。

 「木曽川大橋は床版がトラスの下部にあり,かつ床組みの部材を介してトラスに剛結されていたからだ」。国土交通省国土技術政策総合研究所の西川和廣研究総務官はこうみる。トラスの斜材が破断すると,下弦材などに大きな引っ張り力が加わる。ところが,トラスに加わる力の一部を床版が分担できたので,崩落を免れたというわけだ(下の図参照)。設計では通常,床版がこのような役割を果たすことを想定していない。

 一方,米国の橋は床版がトラスの上部に載るだけの構造だった。トラスが破断しても,床版が代わりに力を分担できないまま崩落に至った。「米国と同様の構造の橋が日本にもないとは言えない」と西川研究総務官は話す。

 木曽川大橋は構造のほか,破断を早い時期に見つけたことが幸いしたとみる専門家もいる。破断した斜材のすぐ下に木曽川の高水敷があり,国交省の職員は偶然見つけることができた。もし,破断した斜材の下が河道になっていれば,発見が遅れた恐れもある。


木曽川大橋で破断が見つかったH形鋼の斜材(矢印の部分)。床版と斜材の間にできたすき間に雨水が浸透して腐食。さらに,車の繰り返し荷重が加わって破断したとみられる (写真:国土交通省三重河川国道事務所)

 発見が遅れていれば,斜材の破断によって床版がたわみ,車などの通行によってひび割れが徐々に進展する。「床版が力を分担しきれなくなった段階で突然,破壊して橋全体が崩れていたかもしれない」と,鋼橋の専門工事会社に勤めるあるベテラン技術者は指摘する。

 国交省の試算によると,市区町村が管理する橋の年間の維持・修繕費は1橋平均でわずか8万円。近接目視で点検するだけでも通常,1橋当たり約50万円かかる。日本でも米国の橋の崩落事故は決して人ごとではない。