2007年7月ほど、新設住宅着工戸数がどうなるか注目を集めた月はない。6月20日に改正建築基準法が施行され、確認申請が停滞したことの影響が初めて表れる月だったからだ。結果は、前年同月と比較して全国で23.4%の減少だった。ところが都道府県別に見ると、住宅着工戸数が増えたところもあった。なかでも岐阜県では前年同月比で47.3%も増えていた。

 建設物価調査会が刊行している「月刊住宅着工統計」の9月号によれば、7月の住宅着工戸数が前年同月よりも増えた県は5カ所ある。岐阜(47.3%増)、静岡(16.5%増)、山形(8.4%増)、大分(6.3%増)、神奈川(0.1%増)だ。岐阜県の増加率は突出している。今年、同県ではずっと住宅着工が盛況なのかというとそうではなく、同県庁のウェブサイトによると6月は逆に前年同月比で17.6%の減少だった。

 7月に岐阜県ではいったい何があったのか。9月上旬に、同県の建築着工統計の担当部署に電話で2回問い合わせたが、残念ながら「住宅着工が増えた理由は不明」という答えが返ってくるばかりだった。岐阜県に本社がある唯一の指定確認検査機関のぎふ建築住宅センターにも電話して、事情を聞いてみた。「当機関でも改正建基法の影響で確認申請の件数は例年より減っている」と、どこの確認検査機関でも聞かれるようなコメントしか得られなかった。

 その一方で、同社のウェブサイトのトップページには、岐阜県の住宅着工戸数並みに記者を驚かせる注意書きがあった。確認申請図書を受理する前に図書の問題点を申請者に指摘する「事前相談」を、8月19日に廃止したという記述だ。この措置については、「各申請図書の問題点や不備が少なくなってきたので、改正法施行後3カ月の予定だった事前相談の実施期間を、2か月に短縮した」と、どこの確認検査機関でも聞かれるわけではないコメントが得られた。住宅着工戸数との因果関係はわからない。

 改正建基法の周知不足で、少なくとも首都圏の確認検査機関や特定行政庁では、事前相談の実施時期に関して「12月まで」「期限を設けずに実施」といった話を聞いている。改正法の周知について岐阜県に特別な事情があるのかどうかは、いまのところ不明だ。

 ところ変われば品変わる。このことわざは、英語では「So many countries, so many customs(国もいろいろ、慣習もいろいろ)」と表現されるそうだ。改正建基法の施行を巡っても今後、日本の各地でさまざまな「customs(慣習)」が生まれることになるのか──。国交省や首都圏だけでなく、地方の状況にも引き続き注目していきたい。