書評に興味を持って『水はなんにも知らないよ』(左巻健男著)という新書を読んだ。いわゆる「ニセ科学」の問題を取り上げた本で、ニセ科学が抱える問題点と科学リテラシーの必要性について触れている。

 著者はニセ科学を「科学で使われる用語を使い、科学っぽい雰囲気を持たせているが、本物の科学ではないもの」としたうえで、「科学的な雰囲気を持つ用語を散りばめることで、科学への理解は浅いにもかかわらず科学的な雰囲気には弱い人たちの心理を、効果的に突いてくる」と警鐘を鳴らす。

 ニセ科学に共通するキーワードとして「波動」「共鳴」「クラスター」「マイナスイオン」「エネルギー」「活性」などを挙げている。「水ビジネス」を中心に、科学的にもっともらしい理屈をつけることで消費者を信用させる「怪しげな商品」も例示している。

 ニセ科学を用いた道徳の授業が行われるなどの現状に危機感を持った科学者たちは問題提起を始めており、インターネット上でも現在進行形で様々な議論がある。「ニセ科学」「ニセ科学フォーラム」などの言葉で検索すると、数多くのサイトがヒットする。

 事業の発注者が一般の消費者である住宅は、建設分野の中でも「ニセ科学」の類が入り込みやすい。ニセ科学とは違うかもしれないが、学会での発表論文や構造的な強度などの試験データ、各種の認定などを拡大解釈したり、前提条件をあいまいにしたりするケースも目にする。

 理論派で知られるある工務店の経営者は「意図的に単位をあいまいにするなどの方法で、工法や材料の効果を過大に宣伝している例が往々にしてある。それを鵜呑みにして無邪気に建て主に薦める同業者も多いが、用心しないと建て主とのトラブルや訴訟など経営上のリスクを抱え込む」と注意を促す。

 無邪気な善意と、意図的な確信犯がえり分けられずに一体となってしまうところに、この問題の危うさと難しさがあるのだと思う。

 「水はなんにも知らないよ」の著者は「世の中には、『科学的よそおい』をこらした情報があふれかえっており、そこではニセ科学にだまされない能力やセンスが求められる」としている。住宅の設計者や施工者も「知らずに」「よかれと思って」したことで加害者になりかねないリスクにさらされているのが現状であり、対岸の火事ではない。