東京電力は8月17日,新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の被害が大小合わせて1948件に上ると発表した。同社にとって,想定外の被害だったに違いない。

 3号機の変圧器で起きた火災もそうだ。地震の直後に発電所の職員ら4人が駆けつけたが,消火用の配水管が壊れていた。「(ホースからは)1mほどしか水が出なかった」。発電所の高橋明男所長は記者会見でこう明かした。

 職員は地元の消防署に通報しようとしたが,専用電話がある部屋のドアがゆがんで中に入れない。地震の発生から14分後,ようやく消防署に通報できたが,「出動要請が多く到着が遅れる」との返事。消防車が到着するまでの約1時間,職員は火災を遠巻きに見守るしかなかった。

 原発に限らず,地震時には身近なところでも想定外のトラブルが起こる可能性は高い。例えば,道路の交通規制だ。

 「この通りは大震災発生時には車両通行禁止となります」。警視庁は東京都内にある幹線道路37路線を緊急交通路に指定して,地震時に消防車や救急車など以外の通行を禁止する。消火活動や救助活動を円滑に進めるためだ。


東京都内の緊急交通路に指定された道路に立つ標識 (写真:日経コンストラクション)

 ところが,通行禁止は本当に守られるのだろうか。阪神大震災のときは,けが人を病院へ運ぶ一般の自動車が道路にあふれた。多数の患者をわずかな救急車だけで搬送することは不可能だったからだ。消防署のシャッターがゆがんで開かず,出動できない救急車もあった。想定外に多くの自動車が消防車のホースを繰り返し踏みつけた結果,ホースに穴が開き,まともな消火活動ができなくなった地区も少なくない。

 地震時にどんなトラブルが起こるのか,普段から想定しておくことが欠かせない。被害が出てから「想定外でした」という言い訳は,あまりにも安直すぎる。