もう10年以上も前のことだ。1994年の1月17日,米・ロサンゼルスのノースリッジで地震が発生。たいへんに大きな被害をもたらした。高架道路が崩落し,その手前を走っていたバスが寸前で止まっている様子をTVや新聞で報じていたのを鮮明に覚えている。

 このとき,日本の識者のなかには,「同程度の地震が日本で発生しても,ノースリッジのように高架道路がバラバラに崩落することは考えにくい」といった趣旨のことを発言する人もいた。しかし,それから1年が過ぎた95年の1月17日,我々は日本で惨たんたる光景を目の当たりにすることになる。阪神大震災だ。崩落した道路の手前でバスが止まっている映像は,1年前をほうふつとさせる。ノースリッジの教訓は何かのかたちで生かされなかったのか,あの識者の発言は何だったのか――。そんなことを,現場からの中継映像を見ながら考えていた。

 先日,米・ミネアポリスで発生した橋梁の崩落事故。事故の詳しい原因がわかるまでには時間を待たねばならないが,維持管理策に問題があったのだとしたら,非常に残念なことだ。

 日本ではどうなのだろうか。

 国土交通省の冬柴鐵三大臣は,8月3日の会見で次のように述べている。「日本においてはあのようなことは起こらないと堅く信じているし,また,国民の皆様方にも安心していただきたいということを申し上げたいと思う」。この発言は,ミネアポリスの惨事を受けてのものだ。定期的に十分な点検を実施しているので問題はないという趣旨だろう。

 ここで気になるのは,点検の内容だ。国交省の峰久幸義事務次官は8月2日の会見で,「コンクリートの床版のひび割れ,鋼材部のさびなどの損傷の有無を直接肉眼で確認して,健全度を把握している」と説明している。目視点検が基本のようだ。

 三重県内を通る国道23号の木曽川大橋(下路式の鋼トラス橋)で6月20日,斜材が破断しているのが見つかった。この斜材は道路を貫通する部分がコンクリートの地覆に覆われていた。地覆と斜材の間にすき間ができ,そこに雨水が浸透して斜材がさび,繰り返し荷重がかかったことによって破断したとみられている(詳しくは日経コンストラクション2007年7月27日号参照)。

 この事故の対策検討会に参加した名古屋大学大学院環境学研究科の山田健太郎教授は,鋼材が地覆で覆われているタイプの橋では,通常の目視点検では腐食の進行はわからないと指摘。同様の形式の橋の管理者は,点検ではなく早急に補強を実施すべきだと話している。

 これらの災害や事故から,我々は多くの教訓を得ることが必要だ。