5月5日、ゴールデンウイークの遊園地を襲ったジェットコースターの脱線事故は、折れた車軸が金属疲労を起こしていた可能性が高いとの見方が強まっている(5月8日現在)。金属疲労は目視による定期点検では把握できない現象だという。見えない部分まで維持管理や点検の目が行き届かず、気づかないうちに劣化が進んでいた可能性がある。

 冬柴鉄三国土交通大臣は5月8日の閣議後の記者会見で、遊戯施設などの定期点検を強化する方針を明らかにした。これに先立つ5月6日、国土交通省は既設の遊園地などにあるコースターの車軸について、探傷試験で亀裂などの有無を確認する「緊急点検」を実施するよう求めた。

 今年3月に起きた能登半島地震や1995年の阪神大震災では、構造躯体の腐朽や蟻害が住宅の被害を広げる要因になった。共通するのは、見えないところで進む劣化が、気づかないうちにじわじわと大きくなり、事故や災害が起きて初めて明らかになった点だろう。見えない部分の維持管理の重要性は、往々にして悲劇の後に実感を伴って認識される。

 過去に取材した例で、こういった悲劇を未然に防いだといえるケースがいくつかある。例えば数年前に取材したある工務店のエピソードだ。

 室内がなんとなくカビくさい住宅があった。建て主の訴えを聞いて、念のためにと壁をはがして点検したところ、一部の構造用合板と間柱がボロボロに腐食していた。同じ工法で建てたほかの住宅も点検してみると、3棟のうち1棟は、東側の壁が集中的にやられて、ほとんど耐震性能が期待できない状態になっていた。

 この工務店が仕事をするのは東海地震の危険が想定される地域だった。「まあ大丈夫だろうと放置したままで地震に遭って、自分の建てた家が壊れて建て主が負傷するようなことがあったらこの仕事は続けられない。こう想像すると背筋がぞっとした。あそこで面倒がらずに点検して本当によかった」。工務店経営者の言葉には実感がこもっていた。

 それ以来、毎年、台風シーズンの前に自分が建てた住宅の定期点検を欠かさないことにしたという。原動力はリスクに対する想像力だろう。面倒がらず愚直な確認作業を行うことができるか、わずかなシグナルをキャッチするアンテナを張っていられるか--。この工務店経営者の行いはそう問いかけてくる。と、ここまで書いてきて、まったく建設分野に限った話ではないと自戒した。