現場点検業務の効率化において大きなポイントとなるのは、高精度な位置情報の取得である。これは、ICTの活用が有効である。今回は2つの事例(東京国際空港D滑走路および首都高速道路)の事例を紹介していく。D滑走路では、タグを活用して桁下空間の位置情報を把握し、高速道路の橋梁点検では、センサーにより、衛星の電波が届きにくいエリアにおいても高精度な位置情報を取得することを狙っている。

約2万室におよぶ桟橋部桁内空間などを管理

 東京国際空港D滑走路は、羽田再拡張D滑走路維持管理JVにより建設された(2010年8月30日竣工、同10月21日供用開始)。入札には設計・施工一括発注方式や性能規定発注方式などを採用。また、入札時に請負者が提案した維持管理計画に基づいて当初30年間の維持管理業務も行うこととなった。

  性能規定では、設計供用期間100年という長期間にわたり施設の健全性を維持していくことが求められた。D滑走路には、約2万室におよぶ桟橋部桁内空間など、点検対象が約3万カ所あり、点検項目が440万項目にも及ぶ。現場点検では、目視点検、点検結果の記録などを行う必要があるが、桁内は暗く、現在位置の把握が困難なため、誤った部屋の状態を記録してしまうリスクが懸念された。また、点検項目が膨大なため、帳票作成やとりまとめの作業量も大きくなることも課題として挙げられていた。

東京国際空港D滑走路では、維持管理計画に基づき、100年にわたり健全性を維持することが求められた(第9回インフラ・イノベーション研究会「東京国際空港D滑走路における維持管理業務とITシステムについて(鹿島建設羽田再拡張D滑走路維持管理工事事務所課長 鹿毛量氏」資料)
東京国際空港D滑走路では、維持管理計画に基づき、100年にわたり健全性を維持することが求められた(第9回インフラ・イノベーション研究会「東京国際空港D滑走路における維持管理業務とITシステムについて(鹿島建設羽田再拡張D滑走路維持管理工事事務所課長 鹿毛量氏」資料)

点検現場は、閉所・暗所作業が多く、点検技術者に負担が大きい(第9回インフラ・イノベーション研究会「東京国際空港D滑走路における維持管理業務とITシステムについて(資料:鹿島建設羽田再拡張D滑走路維持管理工事事務所課長 鹿毛量氏)
点検現場は、閉所・暗所作業が多く、点検技術者に負担が大きい(第9回インフラ・イノベーション研究会「東京国際空港D滑走路における維持管理業務とITシステムについて(資料:鹿島建設羽田再拡張D滑走路維持管理工事事務所課長 鹿毛量氏)

  そこで、羽田再拡張D滑走路維持管理JVは、現場点検業務の効率化や確実性の向上を図るため、D滑走路維持管理システムDREAMS(D Runway Examination And Maintenance System)を開発した。

  一般的に、インフラ施設の維持管理は、製造業などの保守業務と比べ、設置環境、要求性能、契約方式などにおいて特殊な条件にあり、センサーやICT機器の導入は進みにくい。こうした中、本事例では、同JVが長期間にわたって厳しい性能規定を果たすことが求められた結果、ICTの活用により、現場点検業務の効率化に加えて、劣化指標の数値化などによって重要施設への予防保全の考え方を導入した注目すべき取り組みである。