点検技術者にセンサーを装着

  東日本高速道路では、東京国際空港D滑走路とは別の手法で、電波の届きにくい場所で高精度な位置情報を取得し、点検技術者の点検作業を支援しようとする取り組みが始まっている。

  この取り組みは、点検技術者が位置認識機能を有する端末を活用して、現在位置や橋梁名や径間、路線種別などの位置に関連する情報を自動収集し、システムに自動入力できるようにすることにより、入力作業の低減や誤入力の防止を図り、現場点検業務の効率化を目指すものである。

  こうしたシステムを構築するためには、誤差が数m以下の精度での位置情報の取得が不可欠となる。しかし、高速道路は電波の届きにくい都市部や山間部に多い。また、橋梁桁内など衛星電波の届きにくい空間での点検が多数必要となる。

  このため東日本高速道路では、東京大学と連携し、点検技術者にセンサーを装着することで位置情報の取得精度の向上を図るシステムの開発を行った。

  このシステムは、位置情報を持った基準位置からの利用者の移動距離・方向などをセンサーによって把握し、利用者の現在位置を算出するもので、以下のような特徴を有している。

  • 衛星の電波環境が良好でない、屋内、地下、山間部、都市部(ビル街)のような環境でも高精度な測位が可能。
  • 点検技術者にセンサーを装着しているのでGPSでは困難な位置高度の推定が可能。

システム開発に併せて行った実証実験では、GPSによる測位の場合は精度の低い個所で最大約80mの誤差が発生したが、同システムでは、最大でも3m程度の誤差という測位精度を得ることが確認された。

  一方、本システムは、点検技術者の移動距離・方向を把握し、現在位置を算出する方式であるため、点検技術者の移動距離に応じて誤差が累積する特性も有している。現場点検業務で活用するためには、連続的に高精度な位置情報を把握することが必要となる。そこで、位置情報の累積誤差を低減するため、検査対象構造物に設置してある位置情報タグにより位置情報を補正するなど、実際の運用方式を考慮した位置補正・測位手法の検討が引き続き行われている。

位置認識による現場点検業務改善のイメージ。従来は、現場点検終了後に、オフィスで多数のデータをシステムに入力することが必要であったが、情報端末により、一部の情報については位置情報などから自動的にレコードが生成される(資料:東日本高速道路)
位置認識による現場点検業務改善のイメージ。従来は、現場点検終了後に、オフィスで多数のデータをシステムに入力することが必要であったが、情報端末により、一部の情報については位置情報などから自動的にレコードが生成される(資料:東日本高速道路)

現場点検業務の効率化におけるICTの活用の方向性

  この東日本高速道路のシステムでは、歩行、立ち止まりなど、センサーによる点検技術者の行動の推定が可能となっている。この機能によって、センサーによる位置情報および、端末操作情報などを組み合わせ、より詳細かつ精度の高い点検者のコンテキスト情報(時刻、位置、環境状況、端末操作情報、行動情報など)を収集することが可能となる。こうして収集した情報からは、合理的な点検計画の策定など、現場点検業務の最適化の検討を支援することが期待できる。

  さらに、効率的な点検手順や点検ルートを若手技術者に伝達したり、熟達した点検技術者のスキルの可視化への活用も期待され、人材育成や技術の継承を課題に抱える他のインフラ管理分野などにおいても、参考になる取り組みであろう。

  また、東京国際空港D滑走路で使われているようなバーコードを活用したシステムと連携することで、単独の運用よりも精度の向上などの一層の効果が発揮されることが期待できるだろう。

  近年、スマートフォンやタブレット型PCなど、モバイル端末の小型化・高性能化が進んでいる。現場点検に活用する端末についても、小型化・軽量化が期待されるとともに、ICTを活用した効率的な点検システムがより安価に実現できるようになり、このような維持管理業務支援システムの普及が進むことが予想される。

  システムの導入にあたっては、今回紹介した事例のように、蓄積データの構造物の性能の定量的な評価とその将来予測への活用やコンテキスト情報の活用による点検業務の最適化への活用など、あらかじめ蓄積データの有効活用を検討することによりシステム導入効果は、一層大きくなることが期待できよう。

  次回は、地域を守る社会ネットワーク活動へのICTの活用について考えたい。

連載 ICTが解決する社会インフラの課題


監修:「インフラ・イノベーション研究会」(東京大学大学院情報学環社会連携講座)

 様々な分野にわたる幅広い知識や経験が交流し、新しい価値が生み出されるよう努めるとともに、これらの先駆的な取り組みが実用化され、幅広く展開されることを目指して実施。2011年度末までに10回開催した。2012年度も活動を継続中。
・URL= http://www.advanced-infra.org/infra.html