増築中の米国・サンフランシスコ近代美術館は、東側に複雑な曲面からなるファサードを備える。この複雑なファサードを実現するため、1枚ずつ形が違うグラスファイバー製パネル700枚を工場で製作した。この複雑な形状のパネルは、発泡プラスチック部材をCNC(コンピューター数値制御)の電熱カッターやルーターで加工した型で作ったものだ。

 米国・サンフランシスコの中心街で今、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)の増築工事が行われている。

 特徴的なのは、東側に面するファサードだ。複雑な曲面で構成され、しかも横方向には不規則な波形の凹凸が付いているのだ。

SFMOMAの増築工事の完成予想図(資料:SFMOMA、Snøhetta)
SFMOMAの増築工事の完成予想図(資料:SFMOMA、Snøhetta)

サンフランシスコ近代美術館増築工事の現場。波形の模様が付いたファサードが特徴的だ(写真:家入龍太)
サンフランシスコ近代美術館増築工事の現場。波形の模様が付いたファサードが特徴的だ(写真:家入龍太)

ファサードの拡大写真。1枚ずつ形が違う縦形のパネルが並んでいる(写真:家入龍太)
ファサードの拡大写真。1枚ずつ形が違う縦形のパネルが並んでいる(写真:家入龍太)

 ファサードをよく見ると、縦形のコンクリートパネルのようなものが無数に並んでいるのが分かる。

 しかし、これはコンクリートではなく、グラスファイバー製(FRP)の外装パネルなのだ。

形が違う700枚のFRPパネルを工場製作

 外装パネルの数は、約700枚にも上る。それぞれ違う形のFRPパネルを製作するために、3Dによる設計とCNC工作機械がフルに使われた。

 増築工事の設計はスノーヘッタ(Snøhetta)、元請けは大林組の子会社であるウェブコー・ビルダーズ(WEBCOR BUILDERS)が担当している。専門工事として、ファサード工事はエンクロス(Enclos)、そして波打ったFRPパネルの製作はクライスラー・アンド・アソシエーツ(Kreysler & Associates)が担当している。

FRPパネル製作を担当したクライスラー・アンド・アソシエーツのジョシュア・ザベル(Joshua Zabel)氏(左)と、設計を担当したスノーヘッタのジョン・マクニール(Jon McNeal)氏(右)(写真:家入龍太)
FRPパネル製作を担当したクライスラー・アンド・アソシエーツのジョシュア・ザベル(Joshua Zabel)氏(左)と、設計を担当したスノーヘッタのジョン・マクニール(Jon McNeal)氏(右)(写真:家入龍太)

 外装材は防火材、鉄骨フレーム、そしてFRP製パネルの3つを組み合わせたものだ。

 建物本体の鉄骨はBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフトのRevitで設計し、その表面を平面の外装材ですき間なく覆えるように形状を決めた。

SFMOMAの統合BIMモデル(資料:Enclos)
SFMOMAの統合BIMモデル(資料:Enclos)

RevitのBIMモデルに鉄骨製作会社が作成した外装材取り付け部材のIFCファイルを合体させたモデル (資料:Enclos)
RevitのBIMモデルに鉄骨製作会社が作成した外装材取り付け部材のIFCファイルを合体させたモデル (資料:Enclos)

製造業用の3次元CAD「Inventor」で作成したトランジション部材の3Dモデル(資料:Enclos)
製造業用の3次元CAD「Inventor」で作成したトランジション部材の3Dモデル(資料:Enclos)

建物の内部。外装材がぎっしりと取り付けられている(写真:家入龍太)
建物の内部。外装材がぎっしりと取り付けられている(写真:家入龍太)

 「ファサードに曲面や凹凸を付けられるのは、仕上げ材のFRP版の部分だ。FRP版に凹凸を付けられる厚さの範囲が決まっているため、パネルの配置には苦労した」とウェブコー・コンストラクション副社長で現場所長を務めるマシュー・ロシー(Matthew Rossie)氏は語る。

 外装材のパネル割りは、当初、横長のタイプを採用することを考えていた。しかし、雨水の処理などにより、縦長のものに変更されたという。