ザハ・ハディド氏による新国立競技場の設計案が「巨大すぎる」と、建築家の槇文彦氏ら約100人が待ったをかけた。2020年の東京オリンピックの象徴であるこの建物を、関係者の合意形成を図りながら予定通りの工期、コストで完成させるためには、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の戦略的活用が必要ではないか。

 新国立競技場の設計コンペで選ばれた、ザハ・ハディド氏のデザイン案が「巨大すぎる」「景観や維持管理に問題がある」と議論を巻き起こしている。

新国立競技場の国際コンペで最優秀賞を獲得したザハ・ハディド アーキテクトの作品。だが、その巨大さが議論を巻き起こしている(資料:日本スポーツ振興センター)
新国立競技場の国際コンペで最優秀賞を獲得したザハ・ハディド アーキテクトの作品。だが、その巨大さが議論を巻き起こしている(資料:日本スポーツ振興センター)

 しかし、新国立競技場は2020年には東京オリンピックのメーン会場として使われるほか、その1年前にはラグビーのワールドカップでも使われる予定だ。完成までに残された時間は5年しかない。

 限られた時間で国、東京都、国立競技場を運営管理する日本スポーツ振興センター、そして今回の要望書を出した建築家などの間で合意形成を図りながら、実現可能で多くの関係者が納得できる設計をまとめなければならない窮地に陥っていると言っても過言ではない。

求められる早期の合意形成と説明責任

 ザハ・ハディド氏による新国立競技場の設計案は、スポーツカーのような流線形のデザインが特徴だ。これまでのスタジアムの常識を打ち破るデザイン上のインパクトはあるが、スケールの点で巨大すぎることが様々な問題の源となっていると言っていいだろう。

 建設コストやオリンピック後の維持管理費というコスト面、閑静な地区の原風景を破壊するという景観面、そしてテロや災害時に避難するための周辺スペースが十分にないため安全面など、指摘される多くの問題点は巨大すぎることに起因している。

 そして11月7日、建築家の槇文彦氏など4人は文部科学省を訪れ、計画の見直しを求める要望書を提出したことは、広くマスコミでも伝えられた。要望書には日本の著名建築家など約100人が名を連ねている。この「待った」によって、工期面の問題も急浮上してきそうだ。まさに、建設プロジェクトで考慮しなければならない「Q(品質)」「C(コスト)」「D(工期)」「S(安全)」「E(環境)」すべての面を解決しなければならない事態に陥っているのだ。

 そして、このプロジェクトには世界オリンピック委員会や海外のオリンピック関係者、そしてオリンピック後も運営管理費を間接的に負担することになる納税者にも、最終案に至る過程を納得いく形で説明する責任も求められてくるだろう。

 従来の図面ベースによる設計・施工プロセスだと、詳細設計に進まなければ間に合わないとばかり、既存の設計案に微修正を加えて落としどころをつけて進むということになりがちだ。しかし、今回はこうした小手先の対応で批判をかわし切るのは難しいのではないか。

 そこで事業主に提案したいのが、BIMと「IPD(インテグレーテッド・プロジェクト・デリバリー)」の戦略的な活用だ。現在の基本設計を多くの人たちが納得できるように改造する過程で、BIMを活用する。そして事業主や建築家のほか、国や東京都などのコスト負担者、施工や維持管理の専門家、環境、防災の専門家、そして近隣住民の代表者などが1つの設計チームを組み、BIMモデルを見ながら、様々な観点で意見を出し合うのだ。もちろん、ザハ・ハディド氏とのコラボレーションも必要となるだろう。