誰でも分かりやすく、熟練の技がいらず、そして現場全体を漏れなく把握できる――。VRや3Dプリンター、3Dレーザースキャナー、数値地図などの3D技術の活用が、土木現場で進化している。最近の事例を紹介しよう。

3Dマップ:伊豆大島の土石流と急斜面をCIMソフトで再現

 10月中旬、伊豆大島では台風26号の豪雨で発生した大規模な土石流災害により30人以上が死亡し、多くの家屋や建物が被害を受けた。

 オートデスクでエンジニアを務める井上修氏は「今後の防災に役立ててほしい」と、土石流被害が発生した地域の3Dマップを作成し、ウェブサイトで公開した。

ウェブサイトで公開された伊豆大島の3Dマップ(資料:井上修氏)
ウェブサイトで公開された伊豆大島の3Dマップ(資料:井上修氏)

 この3Dマップは、被災状況と3D地形を合体させて作られているので、様々な視点や角度から土石流発生個所や被害を受けた地域を見られる。そのため、斜面が崩壊した地形の傾斜や、土石流が流れた跡と建物の高さ方向の関係がよく分かる。

土砂が崩壊した山肌を見上げたところ(資料:井上修氏)
土砂が崩壊した山肌を見上げたところ(資料:井上修氏)

砂防ダム付近の地形(資料:井上修氏)
砂防ダム付近の地形(資料:井上修氏)

土石流が流れ下った斜面を横から見たところ(資料:井上修氏)
土石流が流れ下った斜面を横から見たところ(資料:井上修氏)

建物が密集している部分の傾斜(資料:井上修氏)
建物が密集している部分の傾斜(資料:井上修氏)

山頂から土石流の流れを見下ろしたところ(資料:井上修氏)
山頂から土石流の流れを見下ろしたところ(資料:井上修氏)

 この3Dマップの作成には、井上氏の勤務先であるオートデスクが販売するCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)ソフト「Infraworks」を使った。数十km四方の地域にまたがる鉄道全線などを3Dでモデル化するためのソフトだ。

 データには国土地理院が刊行する「数値地図(国土基盤情報)」の「大島北部」と「大島南部」の2区域のデータと、国土地理院がウェブサイトで無料公開している被災後の航空写真を使った。

 井上氏は「Infraworks」に数値地図を読み込んで地形や建物の形を再現し、地表面上に被災後の航空写真を張り付ける方法で、3Dマップを完成させた。これだけ精密な3Dマップだが、作成にかかった費用は、1区画170円(税込み)の「数値地図(国土基盤情報)」を2区画分購入する際にかかった340円だけだ。

 ウェブ上にはパソコン版iPad版が公開されている。地図を見るためには、パソコンの場合は、ブラウザーに「Google Chrome」を使うか、Internet Explorerに「Google Chrome Frame」をインストールすることが必要だ。iPadの場合は、無料の「Autodesk InfraWorks 360 アプリケーション」をインストールする必要がある。

 取りあえず、3Dマップがどんなものなのかを見たい場合は、YouTubeに動画が公開されている。

YouTubeで公開されている動画(資料:井上修氏)

 ちなみに、この3Dマップは商用利用はできないが、防災や復旧、復興などの目的には無償で使える。井上氏は個人の立場で作成・公開し、フェースブック上で「動画は自由に転載して結構だ。防災上必要なデータがあれば、できる限りアップデートしたい」と語り、CIMの分野から防災活動に協力している。