活用例4 
被災地の造成現場――「見える化」の効果を最大限に生かす

 東日本大震災で津波の被害にあった岩手県山田町では、織笠地区と山田地区で住宅地の高台移転計画が進んでいる。設計施工一括発注方式のプロジェクトを受注した大林組JVは、AutoCAD Civil 3DやInfraworksなどのCIMソフトで、山間地を切り開いて住宅地を造成する工程を工事段階ごとに3Dでモデル化した。その最大の特徴は、3DCGによる工事内容の「見える化」だ。

岩手県山田町の高台移転計画をCIMモデル化したもの(資料:大林組)
岩手県山田町の高台移転計画をCIMモデル化したもの(資料:大林組)

 造成作業の過程では、仮の道路を作り、地域住民の通り道が変わることもある。また、山を20mほど切り下げる部分もある。住民説明会で、こうした施工過程を説明するのに、CIMモデルが大活躍しているのだ。

 「この説明会ではスクリーンにCIMソフトの画面を映写し、現場の技術者自身がソフトを操作しながら工程を説明する。スクリーンに映し出されるCIMモデルの映像は、まるで実際の工事現場を見ているようで、従来の紙の資料による説明よりずっと分かりやすい」と杉浦氏は言う。

CIMモデルを使った住民説明会の様子(資料:大林組)
CIMモデルを使った住民説明会の様子(資料:大林組)

 「ある年配者から『山が20m低くなるということのイメージが分からない』という質問を受けたとき、CIMモデルを見る視点を説明会場となった学校の位置に移動させた。すると説明会場から見た地形がどう変わるのかがよく分かったようで、納得して帰っていかれた」(杉浦氏)。

CIMモデルで作成した造成地の施工手順(資料:大林組)
CIMモデルで作成した造成地の施工手順(資料:大林組)

 また、掘削する土砂の量が多いため、運搬用にベルトコンベヤーを設置する計画を立てたとき、空中の電線とコンベヤーが干渉してしまうことが分かった。こうした状況を図面で電話会社の担当者に説明しても、どこが問題なのかがなかなか理解してもらえなかった。そこで3Dモデルで電線とコンベヤーの干渉状態を説明したところ、すぐに理解してもらうことができた。

ベルトコンベヤーと既設電柱との位置関係もCIMモデルなら一目瞭然(写真:家入龍太)
ベルトコンベヤーと既設電柱との位置関係もCIMモデルなら一目瞭然(写真:家入龍太)

 見える化の効果は、施工を担当するJVの内部でもあった。造成地への取り付け道路の勾配は平面図では分かりにくいが、3Dモデルにすると「ここは勾配が10%を超えているのでダンプトラックは通行できない」といった設計上の問題点が手に取るように分かったのだ。そして早い段階で適切な設計や施工方法へと、修正が行われた。

 このプロジェクトでは今後、ガス管や水道管などの埋設管などもCIMモデルとして入力していく予定だ。すると将来は、携帯端末用のAR(拡張現実感)アプリを使い、道路下の埋設管を“透視”しながら、維持管理業務を行うことも可能になりそうだ。