活用例1 
山岳トンネルの施工現――日常業務のデータをCIMモデルと連係

 CIMモデルは、構造物の3次元形状を表す3Dモデルと、各部分の仕様や材質などを表す属性情報を1つにまとめて扱えるのが特徴だ。そのため、CIMによる設計や施工管理では、3Dモデルを作るスキルを持った技術者が必要と思われがちで、これがCIM活用に対するハードルを高くしている面がある。

 和歌山県白浜町で施工中の近畿自動車道紀勢線の見草トンネルの現場では、3Dモデルから属性情報を切り離し、独立して扱えるようにした。その結果、現場の職員はこれまで通り、切り羽の写真撮影や覆工コンクリートのスランプ試験、支保工の変位測定など、日常業務を行うだけでそのデータがCIMモデルと連係させることができるようになった。

 こうすることで、3Dモデルの作成はCIMソフトに習熟した技術者が行うものの、その後の属性情報の管理は一般の技術者が行えるようになる。つまり、CIMソフトの使い方を知らなくても、CIMのワークフローに参加できるのだ。

見草トンネルのCIMモデル(資料:大林組)
見草トンネルのCIMモデル(資料:大林組)

 「この現場では業務量が多く、しかも技術的判断が求められる業務に特化してCIMを導入した」と杉浦氏は言う。例えば切り羽の観察や岩判定、発注者との打ち合わせといった業務だ。

 その手順はまず、CIMソフトでトンネルの3Dモデルを作る。そのモデルを「Navisworks」という3Dモデル閲覧ソフトに読み込み、「Navis+」というソフトで、CIMの3Dモデルにひも付いている部材の番号と属性情報を表計算ソフト「Excel」の形式で書き出す。

 この表にコンクリートのスランプ値や「支保パターン」と呼ばれる支保工の仕様、支保工の変位などのデータを書き込んだ後、もう一度「Navis+」で属性情報をNavisworksに戻すと、トンネルの設計情報や地質、施工後の変化など、施工管理の情報がCIMモデルと一体化して扱えるようになるのだ。

 表の左端にはCIMモデル内の部材番号があり、その属性情報が2列目以降につながって出てくるのだ。属性情報はExcel上で必要なだけ列を追加して作ることができるので簡単だ。

「Navis+」による属性情報の作成・管理イメージ(資料:伊藤忠テクノソリューションズ)
「Navis+」による属性情報の作成・管理イメージ(資料:伊藤忠テクノソリューションズ)

日常業務で作成しているExcelのデータをCIMモデルに自動的に連係させる(資料:大林組)
日常業務で作成しているExcelのデータをCIMモデルに自動的に連係させる(資料:大林組)

 現場ではこれまで日常業務で作成してきた断面計測データや切り羽の観察データ、覆工コンクリートの品質情報などのデータをCIMモデルとひも付けるようにプログラムを組み、「Navisworks」で読み込んだCIMモデルと現場データとの連係を自動化している。

 そして、このCIMモデルは携帯端末のiPadに入れて、現場内のどこでも見ることができるのだ。

 「CIMモデルのトンネル軸に沿って何枚もの切り羽の写真が並ぶと、地層とトンネルの位置関係がよく分かる。トンネルのデータ、計測したデータ、そしてトンネル上の現況地形データを重ねて総合的に見ることで、迅速かつ的確な判断が行える」と杉浦氏は説明する。

支保パターンごとに色分けされたCIMモデル。そのまま現場の最前線まで持って行き、施工管理に使える(写真:家入龍太)
支保パターンごとに色分けされたCIMモデル。そのまま現場の最前線まで持って行き、施工管理に使える(写真:家入龍太)

 さらにこの現場では坑口付近の地形を3Dレーザースキャナーで計測し、掘削土量の計算に使っているほか、そのデータを3Dプリンターで造形し坑口付近の模型も作った。完成後はトンネル内面を3Dレーザースキャナーと写真で記録し、発注者に維持管理用のデータとして渡すことも考えている。現場所長は「この現場をCIM銀座にしよう」と積極的にCIM活用に取り組んでいる。