ビルの運営段階で必要なコストはこれまで「固定費」と考えられ、あまり積極的に経営のメスが入れられない分野だった。しかし、BIMとファシリティー・マネジメント(FM)が連携することで、固定費を利益に変える「攻めのFM」が可能になりつつある。

 BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)は、建物の設計から施工へと、活用範囲が広がりつつある。

 ところが、建物完成後の運用や維持管理の分野では、BIMを活用するメリットに対する理解が十分に得られず、本格的な展開はまだまだこれからといった状態だ。

 そんな中、大塚商会は日本で初めてBIMとBEMS(ビルエネルギー管理システム。ベムスと読む)を連携させたシステムを製品化し、9月26日に発売する。

 ビル節電対策ソリューション「3Dビルコミュニケーションシステム」というもので、BIMモデル上に各室の空調や照明の稼働状況を分かりやすく表示し、制御も行うのが特徴だ。このシステムのためだけにBIMモデルを作るのは不経済だが、設計、施工の段階で作ったBIMモデルを完成後に活用することでコストも抑えられる。

「3Dビルコミュニケーションシステム」の概念図(資料:大塚商会)
「3Dビルコミュニケーションシステム」の概念図(資料:大塚商会)

 空調・照明をきめ細かく制御し、エネルギー消費を減らすためのポイントは、BIMモデルをコントローラーとして、使っていることだ。

 自分のフロアでも、壁に並んだ多くの照明スイッチのうち、どれが自分の席周辺のものなのかはなかなか分かりない。その結果、必要な照明は一部だけなのに全部のスイッチを入れて、フロア全体の照明をつける、といった電力の無駄づかいをよく見かける。

 その点、このシステムは実際のスイッチに遠隔制御の装置を取り付けるとともに、BIMモデルの内部に照明のスイッチを組み込み、該当する位置の照明器具をクリックすると、その部分の照明がオンになる。こうすると、必要な部分だけ照明をつける、ということが簡単に行える。ブレット端末を使ったタッチ操作による空調や照明の制御なども可能だ。

3Dモデル上の照明をクリック(上段)すると対応する実物の照明もオン/オフされる(写真:家入龍太)
3Dモデル上の照明をクリック(上段)すると対応する実物の照明もオン/オフされる(写真:家入龍太)

 また、施設管理者にはBIMの3D図面を使うことで、「どこでどれだけ電力を使っているか?」といったフロアの電力利用状況確認がより分かりやすくなる。そのほか、会議室予約と連携して、会議の開始時間にあわせた空調や照明制御、スマートコンセントによる電力管理などの拡張性を備えている。

 この製品は、本社ビルの省エネ活動などで実績のある竹中工務店の技術を基に開発され、大塚商会が導入とサポートを担当する。

 竹中工務店では自社の技術研究所や関連会社のTAKイーヴァック新砂本社ビルなどで、BEMSと連携した「タスク&アンビエント照明」やセンサーと連動した「パーソナル空調」など、先進的な空調システムを導入し、消費電力を40%削減するといった目標に向けて取り組んでいる。

 その技術を基に、ビル新築時のほか、既存ビルでも導入できるオープンなビル管理システムとして、オフィスビルやテナントビルでも使えるシステムを開発した。また、ソフトウエアをパッケージ化することで稼働までの期間を短縮した。

 価格 1サーバーライセンス(接続ポイント100付き)で50万円(税別)から。追加で接続できる機器が1000まで、1万まで、無制限の3種を同時発売予定だ。開発はTスポットが担当した。

7月29日に東京・飯田橋の大塚商会本社で開催された発表会には、多くのBIM関係者が集まった(写真:家入龍太)
7月29日に東京・飯田橋の大塚商会本社で開催された発表会には、多くのBIM関係者が集まった(写真:家入龍太)

 スイッチや電力表示は建物の運用段階でユーザーが最もよく使う機能だ。ここにBIMモデルを持ってくることにより、次は「水道の使用量を見てみたい」とか、「火災報知器の稼働状態も見てみたい」、そしてついには「壁の裏にあるファンの稼働状態も見てみたい」と、ユーザーの要望は広がっていきそうだ。

 3DBEMSの強みは、その要望に応じて次々とシステムを拡張していけることだ。BIMの維持管理への活用というと、建築関係者はどうしても「壁の裏にある設備を管理する」などの方から入っていきがちだが、この3DBEMSは逆に壁の表側の管理から入り、裏へと進んでいこうという戦略がある。