イエイリ建設IT戦略

BIMと3Dプリンターで!五重の塔を検証・再現

2013/09/04

建築構法の研究を行う千葉大学大学院工学研究科の平沢研究室は、日本の伝統建築である五重塔をBIMで完全に再現。3Dプリンターなどで部材の模型を作り、施工手順も検証した。各部材の3D形状の作成には「GDL」と呼ばれる言語をフル活用した。

 千葉大学大学院工学研究科の平沢研究室を訪れると、真っ先に目に飛び込んでくるのは、法華経寺五重塔の骨格を忠実に再現した2つの模型だ。

 白い模型は溶けたプラスチックを少しずつ積み上げて造形するタイプの3Dプリンターで各部材を製作し、組み立てたものだ。隣にある茶色の模型はCNCルーターと呼ばれる切削加工機でケミカルウッド(合成木樹脂)から各部材を削り出し、組み立てた。

千葉大学大学院工学研究科の平沢研究室にある法華経寺五重塔の模型(写真:家入龍太)

3Dプリンターで造形した部材を組み立てて作った最上層の模型(写真:家入龍太)

CNCルーターでケミカルウッド (合成木樹脂)を切削加工して作った模型。シャープな仕上がりだ(写真:家入龍太)

模型製作に使用した3Dプリンター(左)とCNCルーター(右)(写真:家入龍太)

 各部材の接続部となる仕口部も、基本的に実物を再現している。つまり、昔の宮大工がノコギリやカンナで木材を刻むのと同じように、3DプリンターやCNCルーターが部材を作ったのだ。

 これらの模型は、五重塔がどのような構法で作られているのかを検証するために作られた。部材を加工する元になったのは、意匠設計用BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト「ArchiCAD」で作られた五重塔の3次元モデルだった。

BIMパーツは一つずつコマンドで作成

 五重塔は全国各地にあるが、屋根下に複雑に組まれた「三手先」と呼ばれる部分は同じような形をしている。例えば、梁部材を支える部分には「巻斗(まきと)」や「大斗」、「方斗」、「鬼斗」などの「斗(ます)」という部品が使われている。

 しかし、なだらかなカーブを描く屋根べりや垂木など水平、垂直でない部材が多く、部材同士をつなぐ仕口部には独特の切り欠きがある。鉄筋コンクリートや鉄骨で現代の建築物を設計するのに使われるArchiCAD「梁」や「柱」などのパーツは、ほとんど使えない。

細部まで再現されたBIMモデル(資料:千葉大学大学院平沢研究室)

平沢岳人准教授(左)と加戸啓太氏(右)(写真:家入龍太)

 この難題を解決するため、千葉大学大学院工学研究科 建築・都市科学専攻建築学コースの平沢岳人准教授と加戸啓太さん(現・建築研究所)が使ったのは、オリジナルのBIMパーツを作れる「GDL」という言語だ。

 GDLはコマンドのテキストをプログラムのように書いて、BIMパーツの形状や寸法を定義する仕組みだ。宮大工がノコギリやノミで木材を刻む代わりに、GDLのコマンドを一行ずつ書いて合計6207個のBIMパーツを作った。通常のBIMによる設計作業ではあまりお目にかからない地道な作業だ。

 一方、BIMならではの作業効率化も図った。巻斗などの大きさは支える部材の幅などによってシステマチックに決まる仕組みになっている。

 そこで部材は種類別にBIMパーツは各部の寸法を変数で定義した「パラメトリックモデル」として作成し、その変数は別のデータベースシステムから読み込む方式を採用した。

 その結果、一つのパラメトリックモデルを五重塔のあちこちで使い回せるようにした。そのため、宮大工はすべての部材を加工しなければいけないところ、BIMパーツの種類ごとに一つのパラメトリックモデルを作るだけの手間で済んだ。

部材を記述したGDLのスクリプト(左)と法華経寺五重塔の全体モデル(右)(資料:千葉大学大学院平沢研究室、写真:家入龍太)

 BIMモデルの完成までに約2年間を要した。GDLによる地道なプログラミング作業もさることながら、宮大工が「差し金」という道具を使って描くカーブの線形や仕口の形状などの作図手順を理解するのに長い時間を要したという。

まずはGDL言語の特訓を10週間

 ArchiCAD上のパラメトリックモデルに寸法データを与えるデータベースや、データ連係のソフトは研究室で独自に開発した。

 平沢研究室にとってGDL、データベース、C言語は“三種の神器”とも言える存在だ。平沢准教授は「この3つがあれば、たいていの研究ツールが作れる」と語る。

 千葉大学の建築学科にはC言語によるプログラミングの授業があり、平沢准教授が担当している。また、平沢研究室に入った学生は、まず10週間にわたりGDL言語の特訓を受ける。そして研究で必要なら、「Postgre SQL」というデータベース言語も学ぶ。

3Dプリンターで造形した五重塔の部材を組み立てたモックアップ(写真:家入龍太)

 同研究室ではこのほか、複雑な曲面を持った建物を設計・施工する手法として、立体トラスの棒材の長さや接合部の角度を様々に変えて組み合わせる「オーガニック・ストラクチャー」や、互いに交わらない3本の棒材をワイヤでつないだブロックを組み合わせた構造物なども研究している。

 また、拡張現実感(AR)の技術を使って街並みや橋などの見え方をシミュレーションしたり、アルゴリズミックデザインの手法で街並みの3D形状を自動発生させたりする研究などにも取り組んでいる。

ワイヤで棒材を空間に浮かすように作ったブロック(左)をつないで作った曲面形状の屋根模型(右)(写真:家入龍太)

ARによる街並みのシミュレーション(左)。ヘッドマウントディスプレーにカメラを取り付ける架台も3Dプリンターで自作した(右)(写真:家入龍太)

 BIMやARなどのバーチャルな技術だけでなく、丸ノコや電動ドリル、そして3DプリンターやCNCルーターを使ったリアルなものづくりを組み合わせた研究が平沢研究室の特徴だ。

 五重塔の部材をBIMによって再現した今回の研究は、その集大成とも言えるものだ。「部材の納まりレベルまできっちりと構法を検証するのが、この研究室のテーマだ。コンピューターなしでも可能だが、コンピューターをフルに活用することによって仮想空間で構法を開発したり、アルゴリズミックデザインと構法を連係したりできるようになるので研究の幅が広がる」と平沢准教授は語った。

家入龍太(いえいり・りょうた)
1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。
家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/ツイッターやfacebookでも発言している。

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