BIMパーツは一つずつコマンドで作成
五重塔は全国各地にあるが、屋根下に複雑に組まれた「三手先」と呼ばれる部分は同じような形をしている。例えば、梁部材を支える部分には「巻斗(まきと)」や「大斗」、「方斗」、「鬼斗」などの「斗(ます)」という部品が使われている。
しかし、なだらかなカーブを描く屋根べりや垂木など水平、垂直でない部材が多く、部材同士をつなぐ仕口部には独特の切り欠きがある。鉄筋コンクリートや鉄骨で現代の建築物を設計するのに使われるArchiCAD「梁」や「柱」などのパーツは、ほとんど使えない。
この難題を解決するため、千葉大学大学院工学研究科 建築・都市科学専攻建築学コースの平沢岳人准教授と加戸啓太さん(現・建築研究所)が使ったのは、オリジナルのBIMパーツを作れる「GDL」という言語だ。
GDLはコマンドのテキストをプログラムのように書いて、BIMパーツの形状や寸法を定義する仕組みだ。宮大工がノコギリやノミで木材を刻む代わりに、GDLのコマンドを一行ずつ書いて合計6207個のBIMパーツを作った。通常のBIMによる設計作業ではあまりお目にかからない地道な作業だ。
一方、BIMならではの作業効率化も図った。巻斗などの大きさは支える部材の幅などによってシステマチックに決まる仕組みになっている。
そこで部材は種類別にBIMパーツは各部の寸法を変数で定義した「パラメトリックモデル」として作成し、その変数は別のデータベースシステムから読み込む方式を採用した。
その結果、一つのパラメトリックモデルを五重塔のあちこちで使い回せるようにした。そのため、宮大工はすべての部材を加工しなければいけないところ、BIMパーツの種類ごとに一つのパラメトリックモデルを作るだけの手間で済んだ。
BIMモデルの完成までに約2年間を要した。GDLによる地道なプログラミング作業もさることながら、宮大工が「差し金」という道具を使って描くカーブの線形や仕口の形状などの作図手順を理解するのに長い時間を要したという。