CIMならではのビジネスメリットとは

 国交省は2012年度にCIMの試行業務を11件行った。既に詳細設計が済んでいた物件を対象に、図面から3次元モデルを作り、鉄筋の干渉チェックや景観の検討、施工シミュレーションなどCIMならではの機能を生かした取り組みを実施した。

 鉄筋の干渉部分の発見や盛り土量の計算などの実績はあったものの、CIMでモデル化する労力に比べて、得られた効果については、あまり実感が得られなかったかもしれない。

2012年度のCIM試行業務で行われた施工シミュレーションの例(資料:パシフィックコンサルタンツ)
2012年度のCIM試行業務で行われた施工シミュレーションの例(資料:パシフィックコンサルタンツ)

 「今回の試行は構造物の区間が短い詳細設計業務だったので、CIMによるメリットが感じられなかったのも事実だろう。しかし、新設道路のルート選定業務などでは、切り土量や盛り土量などを自動計算しながら土工量がバランスするルートを選ぶといったCIMの使い方がある。こうした計画や基本設計などではCIM活用の大きなメリットがありそうだ」と青山氏は語る。

 また、道路や堤防のCIMモデルを3DマシンコントロールやTS出来形などの情報化施工用のデータに自動変換できると、切り土や盛り土の施工や出来形管理が従来に比べてずっと楽になりそうだ。

 2012年度の試行プロジェクトは、構造物の詳細設計段階という限られた範囲でのCIM活用だった。今後、基本設計段階や施工段階、そして施工や維持管理のしやすさを考慮して基本設計や詳細設計を行う「フロントローディング」などにCIMの活用が広がっていけば、データの二重入力の削減や作業を楽にする設計など、生産性向上の効果が必ず見つかるだろう。

 国総研の研究者も、国交省だけでなく受注者のメリットも意識しながらCIMに取り組んでいる。高度情報化研究センター情報基盤研究室の谷口寿俊研究官は「CIMの導入・普及は、ただ粛々と技術的・制度的な検討を進めるだけではなく、そのメリットや可能性について広く共感を得られるようにしたい」と語る。

 建築分野ではBIMの「見える化」力や部材の干渉チェックを生かし、施主の意思決定を助け、意匠、構造、設備の各設計に整合性を持たせることで、手戻り工事を防ぐことがBIM活用のビジネス的価値として実証されはじめている。

 一方、土木は施工手順が建築ほど複雑でなく、関係する専門工事会社の業種もそれほど多くないので、手戻り工事の防止はさほど問題にならないかもしれない。土木構造物の設計や施工、維持管理の各段階はもちろん、ライフサイクル全体やそれを使う企業や国民の利益といった幅広い視点で、CIM活用のビジネス的価値を見い出し、CIMユーザーに“報酬”として還元する仕組みも考えていく必要がありそうだ。

家入龍太(いえいり・りょうた)
1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。
家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/ツイッターやfacebookでも発言している。