事例5:VR安土城
バーチャルリアリティーを観光に生かす

 滋賀県近江八幡市では、かつて存在した安土城をバーチャルに復元する「バーチャルリアリティー安土城プロジェクト」を進めている。バーチャルリアリティー(VR)などの技術を使って、現地に足を運ぶと、かつて栄華を誇った安土城をiPadやiPhoneの画面上で見られるようにするというものだ。

 その成果の一部が、4月6日、無料アプリ「VR安土城」として一般に公開された。かつての安土城の姿を再現した3Dモデルを基に、安土城周辺の12カ所のビューポイントから見た360°映像を作ったものだ。

 iPadの向きを上下左右に変えることで、画面も連動して動く。それぞれのビューポイントから見ると、現在の風景とかつての安土城の3Dモデルを見比べることができる。

赤や緑のピンがビューポイントの位置を表す(写真:家入龍太)
赤や緑のピンがビューポイントの位置を表す(写真:家入龍太)

iPadにインストールして「VR安土城」を起動したところ(写真:家入龍太)
iPadにインストールして「VR安土城」を起動したところ(写真:家入龍太)

浄厳院から見た安土城。右側の石垣の奥に見える。このビューポイントだけは現地に行かなくても「プレビューモード」で見ることができる(写真:家入龍太)
浄厳院から見た安土城。右側の石垣の奥に見える。このビューポイントだけは現地に行かなくても「プレビューモード」で見ることができる(写真:家入龍太)

 このアプリは、安土城を見るだけでなく、来街者に周辺の町歩きを楽しんでもらうことも大きな目的だ。

 12カ所のビューポイントは近江八幡駅から安土城や西の湖の湖岸など広い範囲に設置されている。観光客がiPadを持って、あちこちの場所から見ているうちに、町中を踏破してもらおうという狙いがある。

 そのため、アプリの「Q&Aコーナー」には、「ツアーやモデルコースはあるの?」「おいしいものはあるの?」といった観光目的の質問や回答も掲載されている。

アプリの「Q&Aコーナー」。アプリの使い方のほか、観光関係の質問にも回答している(写真:家入龍太)
アプリの「Q&Aコーナー」。アプリの使い方のほか、観光関係の質問にも回答している(写真:家入龍太)

 画面上で点滅するマーカーをタップすると、その建物などの解説画面が表示される。ガイドブックや地図などと照らし合わせる必要がないので、とても手軽に観光でき、短時間で様々な知識が得られそうだ。

 12カ所のビューポイントのうち、「浄厳院(じょうごんいん)」だけは現地に行かなくても「プレビューモード」で見ることができるようになっている。浄厳院からの安土城は、「チラ見」できるだけなので、早く現地に出掛けて近くで見てみたくなる。ユーザーを行動に導く、うまい見せ方だ。

 今回のアプリは拡張現実感(AR)が導入されていないので、現地の風景と重ねて見ることはできない。しかし今後、続編のアプリが出てきそうだ。アプリの「Q&Aコーナー」には、現地の風景と3Dモデルを重ねて見られる「AR安土城」や安土城の内部を見られる「高精度型VR」のアプリを企画中と、予告している。

 すでに消えてなくなった有名建造物も3Dでバーチャルに再建し、iPadを使って見ることで観光振興や歴史教材にも活用できそうだ。

家入龍太(いえいり・りょうた)
家入龍太(いえいり・りょうた) 1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。
家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/ツイッターやfacebookでも発言している。