BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)で、「フロントローディング」(業務の前倒し:施工や維持管理など後工程で発生する問題を設計段階で解決すること)を行う時、設計者の業務量は必然的に増える。しかし設計者がそれに見合った設計報酬を得られる仕組みがないことがネックになっている。設計者はBIMによる設計のメリットを可視化し、自ら設計料を提案することが今、求められているのではないだろうか。

 BIMのフロントローディング効果とは、実施設計の前後にピークを迎えていた設計業務を、企画設計や基本設計などの段階に前倒しすることによって、プロジェクトの品質、コスト、工期、安全性、環境性などを向上させることだ。設計変更のコストは、現場が動いていないプロジェクトの上流段階ほど安く、様々な検討を重ねて設計変更を行いやすい。

 フロントローディング実現のカギを握るのは、建設プロセスの上流段階にいる設計者の協力だ。設計者の業務は、必然的に増えることになるが、その分の設計費を上乗せして請求するのは簡単ではない。このことがフロントローディングの普及を妨げている。

フロントローディングのイメージ(資料:「図解入門 よくわかる最新BIMの基本と仕組み」、秀和システム)
フロントローディングのイメージ(資料:「図解入門 よくわかる最新BIMの基本と仕組み」、秀和システム)

 大阪を拠点にBIMの普及やビジネスでの活用に先進的に取り組むBIMユーザー有志のグループ「BIM LABO」は、こうした問題を打開する試みを始めている。設計の詳細度を表す指標「LOD(Level Of Development)」にもとづいたBIMモデルの作成料の基準をつくり、発注者に明示するようにしたのである。

BIM LABOのメンバー。右から鈴木裕二氏、新貴美子氏、河野誠一氏(代表)、亀岡雅紀氏、内藤友貴氏(写真:家入龍太)
BIM LABOのメンバー。右から鈴木裕二氏、新貴美子氏、河野誠一氏(代表)、亀岡雅紀氏、内藤友貴氏(写真:家入龍太)

モデルの詳細度で異なる価格を提案

 LODとはデータの詳細度を数値化し、定量的に表す指標だ。一般に100番台~500番台の数字で表され、BIMモデルのほかGIS(地理情報システム)などの分野でも使われている。

 BIM LABOのメンバー、鈴木裕二氏(アド設計)は「おおざっぱに言うと、LOD200は基本設計、LOD300は実施設計・確認申請図用、そしてLOD400は施工レベルという感じです」と説明する。

 BIM LABOは建築設計事務所や建設会社の設計部などに対してBIMモデルの作成サービスを提供している。その見積書には、LODごとに設定した価格を記載しているのだ。作業量に応じたLODの数値は、米国・ニューヨーク市が2012年7月に発行した「BIM Guidelines」(PDF)に基づいて作成した。

BIMモデル作成の見積書の見本。LODによって料金は変わる(資料:BIM LABO)
BIMモデル作成の見積書の見本。LODによって料金は変わる(資料:BIM LABO)

 BIMモデルに入れる部材や属性情報は、LODの数値が上がるほど増える。例えば、壁のモデリングでは高さや部屋の境界はレベル100から入力するが、構造はLOD200以上、マテリアルについてはLOD400以上で入力する。また、手すりについてはLOD100では入力せず、LOD200以上で入力する、といった具合だ。

LODによってBIMモデルに入力される範囲が異なる(資料:BIM LABO)
LODによってBIMモデルに入力される範囲が異なる(資料:BIM LABO)

ニューヨーク市の「BIM ガイドライン」の表紙(資料:New York City)
ニューヨーク市の「BIM ガイドライン」の表紙(資料:New York City)

 フロントローディングで、設計を詳細まで詰めておきたい場合は、設計者にもそれだけ負担がかかる。業務量をLODによって明確に規定することで、作業内容があいまいなまま業務を進める不安をなくすとともに、作業の内容に応じた“明朗会計”の料金を示すことで、発注者と価格交渉しやすくなる。

 LODごとの値決めについては、これまでの経験に基づいて設計者が納得できるレベルに設定した。「このLOD別見積もりを設計事務所や建設会社の設計部でプレゼンテーションしたところ、各社からは料金の値ごろ感について妥当な水準ではないかという評価をもらった」と鈴木氏は語る。

 こうした価格設定によって、設計者に納得のいく料金が発注者に受け入れられるようになれば、設計者もフロントローディングに前向きになれそうだ。