BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の普及とともに、コンピュータープログラムによって複雑な曲面や部材配置などを行う「アルゴリズミックデザイン」という設計手法が注目されている。隈研吾建築都市設計事務所では、プログラムの作成とデザインの追求を分業する独自のワークフローによって多くの設計者がこの手法を活用。国内外の様々なプロジェクトでは、意匠の検討だけでなく、干渉チェックや模型作成のような泥くさい業務にも生かしている。
英国スコットランドの都市、ダンディーのウオーターフロントに建設される国際デザインセンター「V&A at Dundee」の建物は、何層ものルーバーが微妙にねじれながら重なったデザインだ。少し離れた視点からは、積層されたルーバーが停泊中の船を思わせるような優美な曲面となって見える。
この建物のデザイン要素は、建物全体のマクロな形状のほか、ルーバーの厚さ・幅と間隔、そして外装材のすき間がかもし出すデザインの透過性など、様々なものがある。
当初、この建物のデザインを担当した3人の設計者は、2次元CADでデザインの検討を進めていた。しかし、この方法だと、3人がかりで1日に1つのデザイン案を作るのがやっとだった。無数にあるこれらのデザイン要素を最適に組み合わせて、最も美しいデザインまでたどり着くのは、気の遠くなるような試行錯誤が予想された。
複雑なデザインを1日に何回も作る
このピンチを救ったのが、コンピュータープログラムによってこれらのデザイン要素の形や大きさ、配置などを決めて全体の形を作り上げる「アルゴリズミックデザイン」というデザイン手法だった。
この作業に使ったソフトは、複雑な曲面などを自由自在にデザインできる「Rhinoceros(ライノセラス)」と、ライノセラス用のフリーのプラグインソフト「Grasshopper(グラスホッパー)」だ。
ライノセラスはマウスや「freeform」という3次元入力装置を使ってデザイナー自身の手でキャラクターや彫刻のような3次元オブジェクトを作るソフトだ。それに対してグラスホッパーは、マウスなどの入力操作をプログラム化して、数式やルールなどのアルゴリズムによって自動化するものだ。
建物のマクロな外形となる立体形状は、上下の「多角形の枠」、枠の間の「高さ」、枠の間の「ねじり角」といった要素をルールとして定義し、コンピューター上にプログラムを組んだ。これらの設定値(パラメーター)を画面上の「スライダー」で変えていくと、その条件を反映した立体の3次元形状が画面上に即座に表示される。
同様に、ルーバーの「分割数」や「厚さ」、「幅」などもルール化した。設計者は音楽編集などに使われるミキサーのボリュームを調整するような感覚で思う存分デザインを練り上げ、短時間で最も美しいデザインにたどり着くことができたのだ。