製造業経験者がプロジェクトを担当

 CATIAは製造業では普及しているが、当時、建設分野で使われることは珍しかった。そのため、モデリングや作図などの作業を担当した3人のスタッフを、このプロジェクトのためにスカウトした。

 その中には航空宇宙工学を学び、飛行機エンジンメーカーのプラットアンドホイットニー社にいた技術者や、機械工学の出身で飛行機メーカーのボンバルディア社にいた技術者も含まれている。この3人が中心となり、建物の内外装から構造、設備を統合したBIMモデルを作成したのだ。

 その成果はダクトや配管などの設備の資材削減に表れた。普通の工事だと初期設計と製作図の作成、施工を何度もやり直すためかなりの資材の無駄が発生するが、この工事では配管などの設備の経路を最適化したため、資材を30%ほど節約できたという。

 さらにBIMモデル通りに部材を発注し、現場合わせが必要なくなったため、残材の無駄もほとんどなくなった。設計ダクトや水配管、排水管、スプリンクラー配管、そして電気設備などを統合した詳細なBIMモデルで事前に干渉チェックを行い、設備の施工を担当する各社が他の設備との位置関係を共有したことによって、業務改善に成功したのだ。

 BIMモデルの情報共有には「3D Experience」という情報共有システムを使い、他社の担当者がBIMモデルを見る時は「3DVIA」というビューワーソフトを使った。

建物の内外装や構造、ダクトや配管などの設備を統合した詳細なBIMモデルで部材同士の干渉問題を事前に解決し、手戻りや現場合わせによる残材の発生を抑えた(写真:ダッソー・システムズ)
建物の内外装や構造、ダクトや配管などの設備を統合した詳細なBIMモデルで部材同士の干渉問題を事前に解決し、手戻りや現場合わせによる残材の発生を抑えた(写真:ダッソー・システムズ)

 建設業ではいまだに各設備の細かい取り付け位置などは下請け会社に委ねられ、バラバラに施工することが多い。現場での部材同士の干渉や手戻り作業がしばしば発生する。そして元請け会社は下請け会社が現場で行った細かい設計変更を把握せず、竣工図面に反映していないこともしばしばだ。

 それは多重下請け構造という建設業独特の分業体制に起因している。建設業の業務に慣れた人ほど、作業の責任分担を無意識に区別し、他社が担当する部分は他社に任せることが当たり前と感じてしまうのだ。その結果、元請け会社が細かい部分の設計・施工を把握できていないことが多くなる。

 しかし、チボリビレッジのBIMモデル作成の中心となった3人の設計者は、こうした建設業の分業体制にとらわれず、建物全体を細部までBIMモデル化した。航空機・自動車産業などの場合、発注者であるメーカー自身が、下請け会社の製造する部品の形状や取り付け位置、仕様などを把握して設計・製作を行う方法は当たり前だ。この製造業の手法を建設プロジェクトに導入した結果、多くのトラブルを事前に回避できたのだった。