イエイリ建設IT戦略

核実験から空きオフィスまで、グーグルアースで見る世界

2013/02/20

グーグルが無償提供しているバーチャル地球儀ソフト「Google Earth(グーグルアース)」をさらにパワフルにするのは、様々なリアルタイム情報や3Dモデルなどをグーグルアース上に重ねて表示できる「kml」というファイルだ。昨年3月からはiPadやAndroid端末などでもkmlが使えるようになり、海外では不動産情報や交通情報、地震情報などを発信するためのプラットフォームとしての地位が定着しつつある。

 2月11日、ある国会議員が尖閣諸島付近の艦船の動きについて「グーグルアースか何かで見れば分かりますよ」と発言して、ネット上ではその発言を冷やかす声で“祭り”となった。

 翌日の昼過ぎ、テレビ画面に北朝鮮が核実験を行ったというニュース速報のテロップが流れると、インターネットの掲示板には「グーグルアースを見たけど何にも起こってないぞ」などと、またまた「グーグルアース」が飛び交った。

 その時、筆者もグーグルアースを立ち上げた。そして、発生時刻は11時57分、震源深さは1.0km、マグニチュードは4.9(当初発表の値。その後5.1に修正)といった情報とともに、北朝鮮の地図上に表示された爆心地と推定される位置を見つけた。冗談のような話だが、まさにグーグルアースで北朝鮮の核実験を“見た”のである。

2月12日の正午過ぎ、グーグルアースで見た北朝鮮の核実験が行われた場所(資料:Google Earth, USGS)

正体は米国発のリアルタイム地震情報

 種明かしをすると、筆者は米国地質調査所(USGS)が提供している「リアルタイム地震情報」をグーグルアース上に表示させたのだ。

 USGSのウェブサイトでは、リアルタイム地震情報をグーグルアース上で見られる「kmlファイル」が提供されている。このうち、過去30日間に発生した地震の発生時刻や震源位置、マグニチュードなどを表示する「Real-Time Earthquakes, Past 30 Days」をグーグルアースで読み込めば、今回の核実験も、実験時刻にネットにアクセスしていればほぼ“リアルタイムに見られる”のである。

USGSのウェブサイトではリアルタイムの地震情報をグーグルアース上で見られるkmlファイルが無償提供されている(資料:USGS)

 筆者はこのkmlファイルを5~6年前から愛用しており、国内外で大きな地震が起こるたびにグーグルアースを起動して地震発生場所を見てきた。2009年5月25日にやはり北朝鮮で行われた核実験の情報もグーグルアースで見ている。この時はマグニチュード4.7だったが、今回の実験はマグニチュード5.1だった。北朝鮮の核実験が大規模化していることがうかがえるデータだ。

2009年の核実験はマグニチュード4.7だったのに対し、2013年2月の実験ではマグニチュード5.1(速報値は4.9。その後修正)となり、実験が大規模化していることがうかがえる(資料:Google Earth, USGS)

 このUSGSの情報は、やはり地震が起こった時の状況判断に役立つ。地震の揺れを感じた時に震源地やマグニチュードの詳細な値がすぐに分かることで、震源地付近に自社が設計・施工を担当した建物や構造物があった場合の対応策をスピーディーに検討できる。遠隔地や海外などの地震では、貴重な情報源となる。

今年2月6日南太平洋で発生したマグニチュード8.0の大地震。海外の地震も詳細な情報が分かると海外物件に対する対策も行いやすい

 また、30日前までの震源地が分かるので、複数の地震の震源を比較して同じ場所か、それとも別の場所に移動しているのかなどを確認したり、余震の数を確認したりする時も分かりやすい。

不動産情報を3Dで“見える化”

 都市の中心部に林立する超高層ビルの3Dモデル。あるビルは全体が真っ赤に、あるビルはところどころのフロアや窓に色が付いている。これは米国のキューブ・シティーズ・グループ社(Cube Cities Group)が、グーグルアースを利用して開発した賃貸不動産の広告システムだ。

 色分けは賃貸物件の種別を表す。フロア単位か一部か、建設中か計画中か、といった情報が一目で分かるのだ。

キューブ・シティーズ・グループのウェブサイト(資料:Cube Cities Group)

 キューブ・シティーズのウェブサイトでは、2月13日現在、サンフランシスコやニューヨーク、バンクーバーなど北米16都市の賃貸物件がこのシステムによって検索できるようになっている。

 最初の画面では北米全体が画面に映し出され、左側のメニューで都市や地区を選んでいくに従って、グーグルアースを使った画面が物件のある地区に向かってズームインしていく。

最初の画面では北米全体が表示される(資料:Cube Cities Group)

 希望するオフィス床面積などのデータを入力すると、条件に合った物件の一覧表とともに、3Dのビル群が表示される。空いているオフィスが、どの位置にあり、何階なのかが視覚的に分かりやすいのが特徴だ。

 試しに、あるビルの窓をクリックすると、その物件の床面積や賃料、オーナー、不動産会社の連絡先などが表示される。この画面に目の形をしたアイコンがある。これをクリックすると、なんと、そのオフィス内の窓からの視点に切り替わったのだ。まるで、その物件を見学に行って街並みを見下ろしているかのようだ。

赤い色が付いている窓の1つをクリックすると、画面右上に詳細な物件データが表示された(資料:Cube Cities Group)

目の形をしたボタンをクリックすると、その物件の窓から見た視点に切り替わり、街並みの風景が映し出された(資料:Cube Cities Group)

 キューブ・シティーズのサービスでは、物件情報を30日単位で掲載する仕組みになっている。また、カナダの不動産情報会社、アルタス・インサイト社(Altus InSite)もこのシステムを導入し、バンクーバーやカルガリー、トロントの不動産物件情報を3Dモデルで検索できるサービスを提供している。

 高層ビルが立ち並ぶ都市では、地図上に「ピン」を立てて物件の位置を表示すると、ピン同士が重なり合ってしまい、ほとんど役に立たなくなってしまうことが多い。グーグルアースを利用した3Dモデルによる物件の表示は、街中にどんな物件があるのかを分かりやすく“見える化”できるので、賃貸物件の強力なセールスツールになりそうだ。

アルタス・インサイト社が提供する3Dモデルによる不動産物件情報。町のモデルをぐるりと俯瞰(ふかん)することで、どこにどんな物件があるのかが一目瞭然だ(資料:Altus InSite)

航行する船舶の位置をグーグルアースで見る

 冒頭の「グーグルアースを見れば艦船の位置が分かる」という話は、国内外の沿岸部に限っては、あながちうそとは言えない。

 「MarineTraffic」というkmlファイルを読み込めば、グーグルアース上で時々刻々と移動する船舶の位置をほぼリアルタイムで見ることができるのだ。自衛隊などの艦船も多数の船が行き交う航路部などでは見えることがある。

 旅客船はブルー、貨物船は緑、タンカーは赤などに色分けされているので船種も一目で分かる。航行中の船は進行方向に矢印が出ている。

 表示させると船の位置は動かないが、船舶の位置情報は100秒ごとに更新されているという。時々、メニューバーで「編集」→「更新」とクリックするとそれぞれの船が移動していることが分かる。

浦賀水道付近を航行中の船舶。船名や進行方向、速度などが分かる。船のアイコンをクリックすると写真付で詳しい情報が表示される(資料:MarineTraffic)

 このシステムは、国際航路を航行する船舶などに搭載されているAIS(自動船舶識別装置)によって無線送信される船名や位置、進行方向、速度などの情報を受信して得たデータをインターネットで配信しているもので、普通のウェブブラウザーがあればウェブサイト「MarineTraffic.com」でも、同様の画面を見ることができる。

 ただし、自衛隊などの艦船は任務の性格上、AISの電波を止めていることもあるので、その時はこのシステムでは見えないが。

ウェブサイト「MarineTraffic.com」で見た浦賀水道付近を航行する船舶(資料:MarineTraffic)

 これと同様のシステムは、建設業でも廃棄物の適正処分や残土の搬出入管理などに使えそうだ。例えば、東日本大震災で被災した岩手県山田地区では、災害廃棄物を運搬するダンプトラックにGPS機能付きの情報端末を搭載し、走行位置や速度などの情報を収集し、交通状況に応じた運行管理を行っている。(2012年9月5日の記事を参照

 このプラットフォームとしてグーグルアースを採用し、すべてのダンプトラックにGPSを搭載して運行状況をガラス張りにすることで、不法投棄が行われる場所に停車していないかの監視や、残土を搬出入するダンプの到着時刻を現場で予想できるようにするなど、幅広い用途に使えるだろう。ダンプの動きを一般公開することで、建設業に対する関心や理解も深まるのではないだろうか。

ウェブカメラの位置をグーグルアース上に表示

 米国のワシントン州交通局(WSDOT)は、管内にある多数のウェブカメラの位置をグーグルアース上で見られるkmlファイルをウェブサイトからダウンロードできるようになっている。

 グーグルアース上にはカメラの位置を示すアイコンがずらりと表示され、見たい場所のアイコンをクリックすると最新の静止映像が見られる。朝夕の通勤時や悪天候の時などに交通渋滞などを見るのに重宝しそうだ。

グーグルアース上に並んだカメラのアイコンをクリックして最新の写真を見たところ(資料:WSDOT)

 WSDOTでは、カメラの位置情報や静止映像のほか、山岳道路の状態や商用車の規制情報、交通渋滞、所要時間などを利用者向けに公開している。

 これらの情報はWSDOTのウェブサイトでも公開しているが、「Traveler Information API」というウェブサイトのコーナーで、グーグルアースのほかグーグルマップス(Google Maps)、ビーイングマップス(Bing Maps)、ウェブサイトの新着情報を受信する「RSS」でも見られるように、各種ファイルを用意している。

グーグルアースのほか、グーグルマップス、ビーイングマップス、RSSなど、多くのユーザーに向けてファイルを用意している(資料:WSDOT)

標準プラットフォームに向けた情報提供を

 グーグルアースやグーグルマップスなどは、いまや一般ユーザーだけでなく、鉄道などの維持管理業務でも幅広く使われている地理情報の標準プラットフォームと言えるほどになった。

 日本では2011年の東日本大震災直後に、カーナビを搭載したクルマが通れた道の情報をグーグルアースで見られるようにするなど、グーグルアースを使った情報提供が活発に行われた時期があった。しかし、最近は復旧・復興の進展とともに、グーグルアース上での情報提供も停止されることが増えている。

 一方、国土交通省などは道路や河川に配置したウェブカメラの映像や、河川の水位データを、ウェブサイト上では公開しているものの、グーグルアースなどの標準的なプラットフォームで見られるようにした例は少ない。これは洪水や土砂崩れなどのハザードマップについても言える。

 施設管理者が、自前のウェブサイトで施設の状況についての情報提供を行うのはもっともなことだ。しかし、一般ユーザーにとっては、いざという時に必要な情報が役所のウェブサイトに用意してあっても、その存在を知らず、結局利用しないことが多いのではないだろうか。

 ウェブサイトで発信できる情報があれば、次に求められるのは、それをグーグルアースなど標準プラットフォーム向けに加工して公開することではないだろうか。

 自前のウェブサイトだけでの情報提供は、管理者本位の「プロダクトアウト」的な満足にすぎない。多くのユーザーが日ごろ使っている情報のプラットフォームに合わせた形で発信することこそ、ユーザー本位の「マーケットイン」的な情報提供なのだ。

 冒頭、北朝鮮の核実験の位置をグーグルアース上で即座に推定することができたのは、米国のUSGSがグーグルアースのユーザーを意識した情報発信をしていたおかげだ。地震や洪水、津波、火山噴火、そしてパンデミックなど、日本列島には今後、数々の災害が予想されている。その時、せっかくの情報を有効に利用するためにも、国土交通省を中心に、標準プラットフォームを活用したユーザー本位の情報発信が、これからの政府のICT政策として求められているのではないだろうか。

家入龍太(いえいり・りょうた)
家入龍太(いえいり・りょうた) 1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。
家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/ツイッターやfacebookでも発言している。

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