BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)で意匠、構造、設備の各モデルを統合して設計を進める「フルBIM」では、各ソフトで作成したモデルデータのファイルを「合体」させるイメージが強かった。その主役がBIMのデータ交換標準「IFC形式」だ。しかし、最近は建物の設計ツールが多様化し、データ量も大きくなりつつあり、IFC形式などで1つのファイルにまとめることは現実的ではなくなってきた。今後のフルBIMの姿はどうなるのだろうか。
新国立競技場の立て替えに向けた国際デザインコンクールで最優秀賞を獲得した英国のザハ・ハディド アーキテクトの作品は、日本の意匠設計者にも衝撃を与えた。まるで流線形のスポーツカーのような、この複雑な3次元形状をつくり出すのは、従来の2次元図面はもとより、意匠設計用BIMソフトでも不可能に近いからだ。
アルゴリズミック・デザインの進化
ある建築設計事務所の設計者は、「これまでの意匠設計用BIMソフトでは到底、この形状はつくれない。アルゴリズミック・デザインのエキスパートがデザインにかかわっているのは確実だ」と分析する。アルゴリズミック・デザインとはコンピューター上に数式などをインプットし、それに基づいて複雑な曲面や形状を生成する手法だ。自由自在に曲面形状をデザインできる「ライノセラス(Rhinoceros)」というソフトと、同ソフトと連携して形状を自動生成するフリーソフト「グラスホッパー(Grasshopper)」を組み合わせて使う方法がよく使われている。グラスホッパーはユーザーによって日々、新しいツールがどんどん開発・公開されている。
意匠設計用のBIMソフトのデザイン機能が進化したとはいえ、基本的には床、壁、柱、梁などの基本的な建築部材を組み合わせて設計していく使い方が中心だ。ザハ案のような複雑な形状の建物の外形を表す「マスモデル」を作成し、それを意匠設計用BIMソフトに直接取り込んで建築要素に分解しながらBIMのワークフローに乗せて設計を詳細化していくのは、形状の複雑さのため現在のBIMソフトでもかなり難しそうだ。