国交省とJACICが積極的な連携

 これまで土木構造物の設計や施工は2次元の図面をベースに行われてきた。しかし3次元の立体である構造物を2次元図面の組み合わせで表現するのは、平面図や立面図、断面図など図面間で不整合が起こったり、理解しにくかったりといった問題がある。

 そこで、コンピューター上で構造物の3次元モデルを作りながら、設計を進めていくCIMという手法を導入すれば、土木分野の生産性向上が図れる。

 ICTを活用した建設業の生産性向上の取り組みとしては、1997年から国交省が15年間にわたって取り組んできた「CALS/EC」がある。建設情報を企画、設計から施工、維持管理へと続く建設フェーズの中で、建設プロジェクト関係者が電子情報を共有しながら生産性を高めていくことが目的だ。

 CALS/ECの導入推進によって、図面や工事写真などの電子納品や、電子入札など個別システムの基準や規格作りは進んだ半面、発注者側で受け取った設計業務や工事の電子データは死蔵される傾向にある。また、受注者側は従来の紙の資料に加えて、電子納品のためのデータを別に作成しなければならないという「二重納品」という非効率も解消していない。

 こうした問題点を踏まえたうえで、CIMでは建設フェーズ全体のデータの流れや連携を重視することで、建設業の生産性を上げることを狙っている。当然、受注者側の都合や業務ワークフローも考慮し、受注者側にとってもメリットを感じられるようにしなければならない。そこで国交省とJACICは、2012年の夏、相次いでCIMについての検討会を発足させた。

 まずJACICがとりまとめ役を務める「CIM技術検討会」が同年7月4日に発足。メンバーにはJACICのほか先端建設技術センターや日本建設業連合会(日建連)、建設コンサルタンツ協会(建コン協)など、民間の十数団体が名を連ね、新しい建設管理システムを構築するCIMを実現するため、3次元オブジェクトなどを活用した様々な技術的な検討を行っている。

 一方、国交省は同年8月10日に「CIM制度検討会」を立ち上げた。メンバーは国交省の本省や地方整備局、国土技術政策総合研究所、国土地理院といった国関係の組織が中心だが、土木学会や日建連、建コン協など民間団体も入っている。こちらの検討会では、現行の制度、基準などについての課題を整理・検討している。

 2つの検討会が連携しながら、建設生産システムの将来像を明確にし、実現に向かっての取り組みが急ピッチで行われているのだ。

国交省中心の「CIM制度検討会」と民間中心の「CIM技術検討会」の連携(資料:JACIC)
国交省中心の「CIM制度検討会」と民間中心の「CIM技術検討会」の連携(資料:JACIC)

 国交省では2012年度に、設計業務を対象としたCIM試行プロジェクト10件を各地の整備局でスタートさせている。スピーディーにCIMを普及させ、建設業の生産性向上につないでいくため、手間ひまのかかる基準作成と並行して「走りながら考える」というスタンスも取り入れて、柔軟なCIM活用を模索している。

 こうした国交省のCIM推進の動きを受けて、ソフトベンダーや建設会社などは、CIMの本格導入を先取りした製品やサービス、技術の開発・発売が活発化している。後編では、各社の最新の動きをまとめていく。

家入龍太(いえいり・りょうた)
家入龍太(いえいり・りょうた) 1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。
家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/ツイッターやfacebookでも発言している。