蓄熱槽と太陽発電パネルでエネルギーを最適化

 競技場で一時的に使用する大きな空調エネルギーと周囲の建物で日々、必要なエネルギーをうまくバランスさせることも、設計チームには求められた。最終的な結論は、蓄熱タンクを導入することだった。事務所や店舗、屋内競技場、プール施設などスポーツハブの各施設で使う冷水プラントによって、イベントの前に冷水を作り、蓄熱タンクにためておく方法だ。この冷水を、イベント開催時の空調に使うことで、ピーク電力を下げることができる。

 競技場には大型の太陽光発電パネルが取り付けてあり、年間通じての冷房用の電力におけるCO2排出量は差し引きゼロになるようにしている。

陸上競技トラックの隣で工事が進む(写真:家入龍太)
陸上競技トラックの隣で工事が進む(写真:家入龍太)

 こうした環境対策により、シンガポールの建築環境評価指標である「グリーンマーク」のゴールドプラス評価を受けた。

 完成すると、国立競技場はサッカーやラグビー、クリケットのほか様々な陸上競技に対応できる世界で1つの会場となる。その秘密は、下層の観客席を可動式とし、競技の種類に応じて客席の配置を換えられるようにしたことにある。また、コンサートなどの大規模イベントも招致できるような施設とした。国立競技場は2014年までに完成する予定だ。

国立競技場の内部のCG。下層の座席は可動式になっており、競技やイベントに応じて最適な配置にできる(資料:ARUP SINGAPORE)
国立競技場の内部のCG。下層の座席は可動式になっており、競技やイベントに応じて最適な配置にできる(資料:ARUP SINGAPORE)

夜景のCG。背後にはシンガポールの高層ビルが林立する(資料:ARUP SINGAPORE)
夜景のCG。背後にはシンガポールの高層ビルが林立する(資料:ARUP SINGAPORE)