“鋼橋専用BIMソフト”が生産情報の中核担う

 工場でのものづくりを支える設計システムも、日本製ソフトが主役だ。鋼板の切断形状を決める原寸作業や展開図の作成、CNC切断機やCNC穴開け機用データの作成など、中核的な生産情報を担うのはJIPテクノサイエンスの「MASTERSON(マスターソン)」だ。入力作業などは日本人の派遣スタッフが行っている。

 MASTERSONは鋼橋の橋桁や橋脚などの3次元モデルデータに基づき、様々な図面を自動作成するほか、鋼板のけがきや切断、穴開け、溶接などのNCデータを出力できる。

 さらに橋桁の組み立てや検査、仮組み立てなど、工場での製作工程に必要な製作情報を一環処理する機能を持っている。JIPテクノサイエンスではMASTERSONを「任意形薄肉鋼構造物製作情報処理システム」と位置づけているが、3次元モデルデータを図面から施工管理まで様々な用途に活用している点で、鋼橋製作用の専用BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフトとも言っても過言ではない。

設計室の様子(左)。日本製ソフト、MASTERSONによる設計作業(右)(写真:家入龍太)
設計室の様子(左)。日本製ソフト、MASTERSONによる設計作業(右)(写真:家入龍太)

 「展開図などは2次元の図面だが、計画図や組み立て手順の説明図などは、3次元のCGを使うこともある」と山本氏は言う。

 IIAが狙うのは鋼橋のほか、ボイラーの建屋など大型建物に使われるH400程度以上の大型部材だ。つまり既製の鋼管やH形鋼などから部材を切り出すのではなく、板材などを溶接して大きなH形やI形などの断面を組み上げる大型部材の製作に注力している。「空港などで使われる軽量鉄骨やビルの鉄骨は採算が合わない」(山本氏)。

 安全保護具から巻き尺まで、工場では様々な資機材が必要となる。しかし物不足のベトナムでは、日本のようにメーカーに電話すれば必要なものがすぐに手に入るわけではなく、建機のレンタル会社もない。ベトナムならではの物資調達の苦労がある。

黄色い門形クレーンと工場の建屋(写真:家入龍太)
黄色い門形クレーンと工場の建屋(写真:家入龍太)

 現地のサプライヤーとのつき合いも一からのスタートなので、前金で払う必要がある。銀行振り込みできない会社には、現金を持っていくこともあるという。また、サンプル品の品質はよいが、実際に納品された品物の品質が粗悪という場合もある。

 しかし、ベトナムの企業とつき合いが長くなるにつれて、信頼が生まれてくると後払いができるようになる。信頼できる専門工事会社の情報なども少しずつ分かってきた。

 日本同等品質のものづくりをベトナムで実現できるIIAは、今後、日本の建設業がアジアで高度の技術を要するプロジェクトを行ううえで頼りになる存在となりそうだ。

ハノイとハイフォンを結ぶ国道脇に立地するIIAの工場。ベトナムで日本同等品質のものづくりを実現できる拠点は、今後、日本の建設業の国際展開にとって頼もしい存在になりそうだ(写真:家入龍太)
ハノイとハイフォンを結ぶ国道脇に立地するIIAの工場。ベトナムで日本同等品質のものづくりを実現できる拠点は、今後、日本の建設業の国際展開にとって頼もしい存在になりそうだ(写真:家入龍太)

家入龍太(いえいり・りょうた)
家入龍太(いえいり・りょうた) 1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。
家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/ツイッターやfacebookでも発言している。