Rabbichant2.0: AR専用に開発されたタブレットパソコン

 クレッセントが発売したタブレット型パソコン、「Rabbichant(ラビチャント)2.0」はARやVR(バーチャルリアリティー)、3Dグラフィックを現場で扱うのに適している。「CGを軽快に持ち運べる端末が欲しい」というユーザーの声にこたえて開発されたタッチパネル搭載の高性能携帯端末だ。

AR、VR、3Dのために作られたタブレット型パソコン「Rabbichant2.0」(写真:家入龍太)
AR、VR、3Dのために作られたタブレット型パソコン「Rabbichant2.0」(写真:家入龍太)

 3Dグラフィックを軽快に扱うため、CPUには「AMD T56Nプロセッサー」(1.6GHz、2コア)を採用し、グラフィックボードには「HD6320 Graphics」を搭載。メモリーは4GB、OSはWindows7の64ビット版が使える。

 3Dの画像処理スピードが速いので、現場に3Dモデルを持っていって、いろいろな角度から確認したり、搭載されたカメラを使ってARで現場に3Dモデルを表示したりする作業が軽快に行えるのが特徴だ。

 また、製造業の設計現場では、クルマの3Dモデルの中に人が仮想的に入ってデザインや圧迫感、視認性などを確認する“ウオークスルー”にも使われている。端末の位置や角度などをリアルタイムで計測するため、「モーションキャプチャーカメラ」と連動させるのだ。

 この端末は、5月31日と6月1日、東京・六本木で開催された「第8回GISコミュニティフォーラム」(主催:esriジャパン)の展示会場で公開された。ARのデモンストレーションでは4枚のターゲットを使い、それぞれの上でCGの人形がスムーズな動きで踊り回るシーンを見せていた。

「第8回GISコミュニティフォーラム」の展示会場でのデモ。4枚のターゲット上でそれぞれ別のバーチャル人形がダンスしていた(写真:家入龍太)
「第8回GISコミュニティフォーラム」の展示会場でのデモ。4枚のターゲット上でそれぞれ別のバーチャル人形がダンスしていた(写真:家入龍太)

 このパソコンは、ARをより実感的に見せるため、カメラを端末背面の中心に取り付けている。カメラが真ん中にあると物体に接近したときも、画面の位置がずれないという利点がある。AR専用端末を意識したこだわりが感じられた。価格は35万円(税別)で年間保守料が4万円(同)だ。海外の工場に委託して生産している。

背面の中心に配置されたカメラ(写真:家入龍太)
背面の中心に配置されたカメラ(写真:家入龍太)


 昨年のBIMを使った仮想コンペ「Build Live Kobe 2011」では、一部のチームがARを使って設計した建物のBIMモデルを、パソコンを使って建設予定地や設計室内に映し出す実験に挑戦していた。

Build Live Kobe 2011の参加チーム「PLAN-B」が行ったパソコンによるARの実験(写真:家入龍太)
Build Live Kobe 2011の参加チーム「PLAN-B」が行ったパソコンによるARの実験(写真:家入龍太)

 最近はパソコンではなく、スマートフォンや携帯端末を使い、ARシステムを現場や街中で活用できるようにしたシステムが急増している。この記事で紹介した地中の埋設管の“透視”や、住宅設備や家具などのスケール感の確認、ハザードマップや避難所の方向表示などだ。

 これらのARシステムの特徴は、コンピューターで管理されている建物や構造物の情報を、ARによって実物の上にひも付けして表示できることだ。これは、BIMを使って図面を描くときに、モデルの属性情報や斜線制限などの情報を図面上に表示するのと似ている。図面でなく、現場の風景の上に情報を投影するのがARと言える。

 コンピューターの処理能力をアナログな実写の風景と連携させることで、新たな価値が生まれることを意味している。

 最近、ARのシステムは性能が向上し、精度や動作速度も速くなっている。そして携帯端末やクラウドとの連携で気軽に使えるようになってきた。今後もコンピューターの処理能力と現場を連携させるツールとして、様々なARシステムの登場が期待できそうだ。

家入龍太(いえいり・りょうた)
1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。
家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/ツイッターやfacebookでも発言している。