BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の導入で建物の設計や施工の生産性が急速に向上していく一方、建物が完成した後の運用段階では、以前から変わらない完成図書をベースとしたファシリティーマネジメント(FM)の非効率さが目立ってきた。5月にワシントンDCで開催されたアメリカ建築家協会(AIA)全米大会では、FMとBIMを統合し、建物の運用段階での生産性向上に注目が集まった。

 AIAの全米大会で5月18日に「FMへのBIM活用が始まった~設計と運用の連携について建築家が知っておくべきこと」(原題:Emerging Applications of BIM to Facility Management: What Architects Need to Know about Connection Design and Operation)という講演が行われた。

 発注者、建物管理者、設計者、ソフトベンダーからのパネラーが登壇したこの講演では、FMへのBIM導入についての最新動向がうかがえた。

AIA全米大会の講演には多くの受講者が詰めかけた(写真:家入龍太)
AIA全米大会の講演には多くの受講者が詰めかけた(写真:家入龍太)

FMにBIMを導入する狙いとは

 2004年に米国の国立標準技術研究所(NIST)がまとめた報告書(Cost Analysis of Inadequate Interoperability in the U.S. Capital Facilities Industry)では、建物の設計、施工、運用における情報連携の不備によって毎年158億ドル(約1兆2600億円)もの無駄が発生しているという調査結果が明らかになっている。

 その57%は建物完成後の運用段階で発生しており、毎年90億ドル(約7200億円)が、情報連携の不備のために無駄になっているというのだ。

情報連携の不備によって毎年90億ドルもの損失が発生していることを指摘した報告書(資料:NIST)
情報連携の不備によって毎年90億ドルもの損失が発生していることを指摘した報告書(資料:NIST)

 建物の設計・施工段階での情報連携は、BIMの導入によって改善しつつある。その一方で、維持管理や改修工事などの運用段階での無駄については手つかずのままだ。その原因は、建物の完成時に建設会社からオーナーに引き渡される完成図書やデータが有効に利用されていないことにある。

 そこで、AIAの講演会では、完成時のBIMモデルを建物の維持管理をコンピュータ化した「CMMS」(Computerized Maintenance Management System)や、空調やセキュリティーなどを自動制御する「BAS(ビルオートメーションシステム)」、企業の経営資源を統合管理する「ERP」などを組み合わせることにより、建物のライフサイクルでの情報活用を有効に行うことがテーマになった。