建物を3次元モデルで設計するBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)は、建設業の設計や施工の生産性を向上させることを目指して急速に普及が進みつつある。さらに、BIMの活用が決め手となって海外工事の受注に結び付いた例も出てきた。BIMは建設業内部の業務効率化だけではなく、顧客志向の「BIMによるマーケティング戦略」も考える時期に来たようだ。官民が協力して旧態依然とした建設の仕組みを変革するべきという声も出てきた。


 建設業界でBIMの強みを生かし、停滞している建設市場を活性化させようとしても、設計事務所や建設会社だけの力では限界がある。顧客志向の建築サービスを提供する一級建築士に求められるスキルや建築確認手続きなどは、行政側がコントロールしているからだ。

 建設業界ではCADの使用は当たり前となり、CADが使えないと仕事にならないのが実情だが、一級建築士試験はいまだに「手描き」で行われており、設計現場とのギャップが目立ってきている。

 また2005年に発生した「耐震偽装事件」をきっかけに、建築確認手続きが厳格化され、長期化しただけではなく、不備がある場合は再申請しなければならないケースも多くなった。これは、一刻も早く建物を完成させるうえで施主や建設会社側にとっては「読めないリスク」となり、建築サービスを向上させるうえでのネックとなる。

 日本の建築市場は今後、縮小していくことが予想され、インドや中国などグローバルな市場を視野に入れた戦略を構築していく必要がある。しかし、世界標準とは異なる日本独特の“ガラパゴス”的な建築システムに慣れてしまうと、本格的な海外展開に踏み出す際には足かせになってしまう面もある。

官民が一体となった建設ワークフローの提案

 こうした問題に危機感を持った吉川充氏はこのほど、『建築業界変革論』(幻冬舎刊)という著書を出版した。吉川氏は建築職として約30年間、東京都庁に勤務し、現在は建築確認検査や性能評価などを行う民間指定機関、アウェイ建築評価ネットの代表取締役を務めている。

『建築業界変革論』の表紙(写真:家入龍太)
『建築業界変革論』の表紙(写真:家入龍太)

 同書で吉川氏は、縮小再生産のスパイラルに落ち込んでいる日本の建築業界をグローバル市場で戦える産業に変えるために、建築確認検査にBIMを導入することによってスピードアップさせることを提案している。ローン優遇にも関係する住宅性能評価も併せての「ワンストップサービス化」も実現し、官民がBIMによって連携することにより、顧客志向に立った建築サービスをできるようになると主張している。

 吉川氏は東京都庁時代、課長として東京・有楽町駅前の東京国際フォーラムの建設を担当した。日本で初めて実施された国際建築家連合(UIA)の基準による国際公開コンペや、日米の設計チームのコラボレーションを通じて、吉川氏は日米の建築業界の差を感じたという。

吉川氏が建設に携わった東京国際フォーラムのガラス棟内部。2011年9月のUIA2011にて撮影(写真:家入龍太)
吉川氏が建設に携わった東京国際フォーラムのガラス棟内部。2011年9月のUIA2011にて撮影(写真:家入龍太)

 吉川氏は「閉鎖的で保守的な建築業界に自ら風穴を開けたい」という思いでアウェイ建築評価ネットを立ち上げた。サッカーの試合でいう「ホーム」の反対語である「アウェイ」に「顧客第一主義」を、「ネット」にはバラバラな業界全体を「ネットでつなぐ」という意味を込めたという。