日本国内の建設市場は、年々、維持管理や改修の割合が高まっている。最近では、技術者が現場に出掛けて構造物を点検するのではなく、IT(情報通信技術)を使って現場での単純作業と技術的な点検作業を分ける点検システムが開発されてきた。これらのシステムは、点検作業の生産性を高めるだけでなく、日本の維持管理技術を海外に展開できる可能性も持っている。


 これまでの構造物の維持管理作業は、専門家が現地に出掛け、実物を自分の目で見たり、打音調査を行ったりして構造物の状態をその場でチェックするのが一般的だった。

 ところが最近では、ITを活用した作業効率化が進んでいる。打音調査の代わりに赤外線画像を使ったり、現地で撮影したデータを使い、技術者が現地に出掛けずして点検作業をしたりすることもできる。

 その背景には、デジタルカメラやビデオカメラの高性能化や、ひび割れなどの異状を検出する画像処理技術の活用、インターネットの高速化などがある。

打音調査の代わりに赤外線カメラを利用

 コンクリート内部に亀裂が入り、表層部のコンクリートが浮いたり、はく離したりしている部分を発見するための一般的な方法の一つに「打音調査」がある。コンクリート表面を小さなハンマーでたたいたり、棒付きの金属球でなぞったりするときの音を聞くことにより、内部の空洞を発見する仕組みだ。

 目視や打音による検査は、調査員のスキルによって診断結果がばらついたり、構造物が高い場合には足場の設置が必要だったりと、品質や時間、コストの面で非効率な面が多い。

 そこで、清水建設保全工学研究所 倉敷紡績と共同で、コンクリートの浮きやはく離、ひび割れなどの変状を高精度で効率よく判定できる非接触型の調査診断システム「 HIVIDAS(ヒビダス)」を開発した。

 タイヤ付きの台車に「可視画像」を撮影する高解像度のデジタルカメラや、「熱画像」を撮影する高感度の赤外線カメラ、両方のカメラを同期撮影させるコントロールボックス、そしてノートパソコンを搭載したものだ。 システムは小さなパーツに分かれているので、人力で現場に搬入して組み立てられる。

 現場ではコンクリート構造物の可視画像と熱画像を同じ画角で撮影し、これらを「重畳処理」という手法でピッタリと合わせ、一枚の図面にまとめる

 ひび割れや鉄筋の露出、遊離石灰など、調査員が肉眼で確認できる変状は可視画像で判定し、目視では分からない浮きやはく離は熱画像で判定する。

 浮きやはく離のある部分は、コンクリートの裏側に空気層があるため、周囲と温度が異なる。この温度差を熱画像でとらえることにより、目視では分かりにくい変状を発見できるのだ。調査員のスキルに頼らずに画像解析から高精度な診断を行える。過去の診断結果を電子データで保存して経年変化を分析すれば、ある期間に生じたひび割れを発見することも可能だ。

 HIVIDASによる調査・診断の特徴は、作業効率が大幅に向上することだ。足場や打音調査がいらないので、高さ8m程度のコンクリート壁を診断する場合、調査時間は従来の8分の1程度で済む。

非接触型調査診断システム「HIVIDAS(ヒビダス)」(写真:清水建設)
非接触型調査診断システム「HIVIDAS(ヒビダス)」(写真:清水建設)

 システム構成の立案、実証試験などの開発プロジェクトのコーディネートを清水建設が行い、保全工学研究所は撮影用装置や撮影方法の開発と架台の製作、倉敷紡績は解析ソフトの作成を担当した。地下鉄シールドの二次覆工やタンクの防液堤、護岸などで実証実験を行い、調査精度を確認した。今後は建物の外壁タイルの診断にもHIVIDASを適用できるように、開発を進めていく予定だ。