「本日はうれしいニュースがあります。8月から県の補助金申請のために動いていましたが、正式決定の通知がありました」、「先ほど新聞社から、わが社の取り組みが今日の朝刊で掲載されたという電話がありました」、「応募していた県の『地域思いビジネス発表会』は残念ながら二次審査に進めない結果となりました」。

 これらの“業務報告”に対し、成功事例については「おめでとうございます!」、「いいねえ」などの称賛の言葉が、また失敗事例については「きっとまたチャンスがきますよ」、「またお手伝いさせていただきます」といった励ましの言葉がほかのメンバーから寄せられる。

 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「フェイスブック」に設けられた「どけんやナビの会議室」という会員専用コーナーにリアルな業務報告や応援のメッセージを書き込んでいるのは、地方の中小建設会社の経営者層だ。

 では、この会議室を持つ「どけんやナビ」とは、いったいどのような組織なのか。

フェイスブック内に設けられた会員制の「どけんやナビの会議室」(資料:どけんやナビ)
フェイスブック内に設けられた会員制の「どけんやナビの会議室」(資料:どけんやナビ)

新ビジネス「ふるさと見張り番」で公共土木からの脱却図る

 日本国内の建設投資は年々減少し、地方では最盛期の半分程度まで落ち込んでいる。特に公共土木事業を中心に手がけてきた「土建屋さん」にとっては、打撃が大きい。そこで公共がダメなら、民間の仕事を積極的に開拓しようという意思を持つ建設会社の有志が集まった。それが「どけんやナビ」だ。現在、北陸地方から南九州まで20社が参加している。

 「どけんやナビ」のリーダーは福井県美浜町に本社を置く北山建設だ。同社は公共土木事業を中心に展開してきたが、売り上げが以前に比べて半減した。地域密着型の事業を続けてきた同社は、ネットマーケティングのコンサルタント会社であるルグラン(本社:東京都渋谷区)に相談し、土木の枠を越えて地元にかかわりのあるビジネスを何とか開拓できないかと考え抜いた。

 その結果、「ふるさと見張り番」という新サービスを開発した。故郷を離れて大都市圏で働く人たちが郷里に残してきた田畑や家屋、お墓、空き地などを、地元の建設会社が年間数回見回り、レポートを提出するという民間を対象にしたサービスだ。

 同時に北山建設とルグランの両社はこのサービスを各地で展開するために「どけんやナビ」という有限責任事業組合(LLP)を共同で立ち上げ、民間を相手にした新ビジネスを志す中小建設会社の募集を始めた。入会金10万5000円(税込み)、月会費3万1500円の会費制グループで、登録してメンバーになると「ふるさと見張り番」という名称を使用して同サービスを独自に実施できるほか、顧客向けの見回りレポート作成ツールの利用や、勉強会やフェイスブックの会議室に参加できるなどの特典がある。

北山建設専務取締役の北山大志郎氏(左)と「ふるさと見張り番」のチラシ(写真:北山大志郎氏、資料:どけんやナビ)
北山建設専務取締役の北山大志郎氏(左)と「ふるさと見張り番」のチラシ(写真:北山大志郎氏、資料:どけんやナビ)

 「ふるさと見張り番」は、エンドユーザーのサービス利用料金は年2回プランで2万1000円(税込み。以下同じ)、年4回プランは3万3600円に設定されている。建設工事に比べて2けたも3けたも小さい金額だ。しかし、このビジネスの狙いは、見回りサービスで収入を得るだけではない。

 レポートを通じて雑草だらけになった土地やお墓、壊れた屋根やフェンス、老朽化した家屋などの現状を知ってもらい、その改善提案を行うことで、樹木の定期的なせん定作業や古い池の埋め立て、破損した家屋の修理・解体工事といった次の受注が期待できるのだ(このサービスの特質については最終ページの囲みコラムも合わせてご参照ください)。

「ふるさと見張り番」サービスによって空き家や休耕地などの現状を報告し、修繕工事や草刈りなどを受注する(資料:どけんやナビ)
「ふるさと見張り番」サービスによって空き家や休耕地などの現状を報告し、修繕工事や草刈りなどを受注する(資料:どけんやナビ)

 ふるさと見張り番をヒントに、独自で新ビジネスに取り組んでいる「どけんやナビ」のメンバーもいる。新潟県新発田市の小池組は、公共土木工事で使う「土舗装」の技術で個人相手のビジネスを始めた。雑草が生えやすい墓地やぬかるんだ民家の玄関先などを土舗装するというもので、料金は材料によって1m2当たり1万円前後。成約しても金額は安いが、土舗装によって民間の顧客を開拓し、将来のビジネスへとつなぐ作戦だ。

公共土木工事で使う「土舗装」を個人向けに展開した例(資料:小池組)
公共土木工事で使う「土舗装」を個人向けに展開した例(資料:小池組)