原発問題、日本の再生などの複雑、超長期な問題解決を目指す「P2M」

 建設業界では、建設プロジェクトの企画・設計から施工、維持管理のライフサイクルの中で、3次元モデルを使ったBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やPM(プロジェクトマネジメント)、FM(ファシリティーマネジメント)などのシステムが導入されつつある。

 これらのシステムによって、設計段階での3次元による可視化や、施工段階に発生する問題の事前解決、維持管理の合理化など、個々のプロジェクトのライフサイクルマネジメントが一貫して行われるようになってきた。

 今後の課題は、理想の国土を実現するため、複数のプロジェクトをいかに計画し、実現し、管理していくかだ。限られた予算や資源などの制約条件の下、どんな施設を計画し、建設または更新し、維持管理をしていくためにはどうしたらよいか。

 こうした複雑で長期にわたる課題の解決に、10年前に日本が編み出したプロジェクトマネジメント手法「P2M(プロジェクト・アンド・プログラム・マネジメント)」が今、改めて注目を集めている。

究極のビジョンを目指す実現性ある設計図が「プログラム」

 P2Mとは、複数のプロジェクトが絡み合う複雑で、長期にわたる課題解決を行うための手法だ。エンジニアリング協会(旧・エンジニアリング振興協会)が経済産業省の委託事業として3年間の調査研究の末、2001年に「プロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック」として発表したものだ。2002年以降は、日本プロジェクトマネジメント協会が普及活動を行っている。

 従来のいわゆるPM(プロジェクトマネジメント)は、一つの建設プロジェクトを完成させるまでの各工程を分解し、コンピューターによってネットワーク工程表を作り、限られた人的・機械的資源を効率的に割り当てながら工程を管理する、というイメージだった。

 一方、P2Mに盛り込まれた「プログラム」とは、「理想の国土」といったゴールとなる価値創造を実現するためのプロジェクトの集合体を意味する。各プロジェクトがどのような効果をもたらすかをシナリオ分析しながら、プログラムを最適に設計するとともに構造化し、統合的に管理しながら実行していく。いわば、究極のビジョンを実現するための具体的で実現性ある設計図こそがプログラムなのだ。

 ただし、PMと違って、P2Mを実践するための決定的なITツールはまだ存在しない。「プロジェクトマネジメントのツールとしては『Primavera』や『MS Project』、『Artemis』などの具体的なものがある。しかし、P2Mの『プログラム』を管理するためのツールとしては、具体的なものはない」と光藤氏は言う。

 国や組織などの「あるべき姿(ミッション)」を実現するため、複数のプロジェクトの内容を検討・計画・管理する「プログラムマネジメント」を置き、その下にプロジェクトごとに「プロジェクトマネジメント」を実行するのがP2Mの考え方だ。

 「一方を立てれば他方が立たない」といった具合に、互いに影響を及ぼし合う問題から、縦割り行政、関係者間の合意形成、時々刻々と変化する社会経済などのリスク(不確実性)に対応しながら、実行すべきプロジェクトを選ぶことも含めているのが、単一のプロジェクトを対象とした従来型のPMとの違いだ。

国や組織などの「あるべき姿(ミッション)」を実現するため、複数のプロジェクトの内容を検討・計画・管理する「プログラムマネジメント」を置き、その下にプロジェクトごとに「プロジェクトマネジメント」を実行するのがP2Mの考え方だ(資料:日本プロジェクトマネジメント協会)

あるべき姿を目指し、複数のプロジェクトを管理するプログラムの概念図(資料:日本プロジェクトマネジメント協会)