9月7日の18時にスタートしたBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の仮想設計コンペ「Build Live Kobe 2011」(主催:IAI日本。以下「BLK2011」)には、学生を対象とした「学生クラス」が設けられている。全国から8チームが参加した。制限時間は社会人を対象とした「実務クラス」の倍となる96時間だ。

 学生クラスは昨年のBuild Live Tokyo 2010(以下、BLT2010)で初めて設けられた。その時参加した各チームは、CGによるデザインの表現だけでも相当な苦労をしていた感があったが、わずか1年後の今回、学生の“BIM力”が格段に向上していた。

 今年のBLK2011で設計課題となった「国際交流センター」は、前回の課題「メディア芸術センター」よりも格段に大規模な施設だ。にもかかわらず、様々なシミュレーションや解析を行いつつ、その結果をデザインとしてまとめ上げたチームが多数みられた。各チームの作品は、昨年に比べて完成度が一段と高まっていた。また、BIMモデルを共有しながら進める設計方法から、設計ワークフローの新しいあり方に気づいたチームも多かった。

 10月7日、東京・有明の建築イベント「ArchiFuture 2011」の会場で行われる審査結果の発表では、どのような講評が各チームに下されるのかが注目される。前回の実務クラスに続いて、今回は学生クラスに参加した各チームの取り組みを紹介しよう。

●Build Live Kobe 2011参加チーム(学生クラス)
 東京都市大学 : 東京都市大学デザインマネジメント研究室
 金沢工業大学 : 金沢工業大学
 東北工業大 : TIT III
 神戸大学大学院 : ENKENS
 芝浦工業大学大学院 : TMT
 国士舘大学 : 国士舘
 芝浦工業大学大学院 : HN-OBK
 大阪市立大学大学院 : 三都物語+

東京都市大チームは文系学生でチームを結成

 BIMはエンジニアだけの道具ではないことを実証したのが、「東京都市大学デザインマネジメント研究室」チームだ。同大学の都市生活学部の有志6人で結成した。うち4人は2年生だ。驚くべきことに、この学科は文系に属するものだ。

 文系とはいえ、本格的なBIMソフト「ArchiCAD14」を駆使し、一つのBIMモデルを担当者ごとの領域に分けて同時に設計する「チームワーク」という機能も活用した点は、実務クラスの有力チームにひけをとらない使いこなしぶりだった。

東京都市大学の文系学生がBIMで設計した作品の外観(資料:東京都市大学デザインマネジメント研究室)

人の流れを考慮して3方向に出入り口を設けた大会議場(左)と、バーチャルリアリティーシアターの内観(資料:東京都市大学デザインマネジメント研究室)

 「社会科学の視点で街と文化を創造する」という考え方で戦い抜いた96時間で、彼らは施設ユーザーに密着した提案をした。その象徴とも言えるのが、サイン計画だ。

 スマートに設計された駅や地下街などの壁に、大判の紙に手書きした行き先表示が張り付けてある風景をよく目にすることがある。看板の設置位置や表示内容について、ユーザーの視線や行動をあまり考えていない段階で設計に落とし込んでしまったのだろう。そのため、後付けで不格好な付け足しの案内表示が必要となってしまう。サイン計画は、コンベンション施設にとって重要なポイントだ。

 作成したCGには、様々なサインとともに宿泊室や研修室、会議室などの価格表を掲げた。これは、初めて施設を訪れた人がスムーズに施設を使えるようにするというきめ細かい心配りである。

サイン計画の検討(資料:東京都市大学デザインマネジメント研究室)

シミュレーションによって階段の配置と避難時間を比較検討(資料:東京都市大学デザインマネジメント研究室)

 また、「東京都市大学デザインマネジメント研究室」チームが各施設の設計に先立って行ったのが、「組織図」の作成だった。所長、副所長以下、本部やデータセンター、国際研究センターなどの運営や設備、インストラクターなど従業員の総数を27人と設定し、それを図面上に表現したという。このほか、非常時における建物からの避難シミュレーションも行った。

 東京都市大学都市生活学部は、教授陣に山口重之氏や岩村和夫氏、河村容治氏など、BIMや3次元設計の経験豊富な人材を集め、1年生からBIMの授業が必修になっている。その目的は、未来の発注者を育成することだ。

 建築設計実務の一般的な流れだけでなく、ユーザー目線で大切にしたいことを盛り込んだ同チームの設計案には、早くもその教育方針が宿っているかのようだ。