4月11日から14日までの4日間、東日本大震災の被害を受けた仙台市、宮城県石巻市、宮城県白石市を1台の黒っぽいワゴン車が走り回った。行く先々で自衛隊員や警官の敬礼を受けるこのクルマの任務は、被災地の道路や周辺のがれきの状態を高精度で記録することだった。

 ある自治体から地元コンサルタントに発注された調査業務の一環として名古屋市に本拠を置く測量ソフトベンダーのアイサンテクノロジーが計測業務を担当した。

 ワゴン車の屋根には、6台のカメラ、4台の3次元レーザースキャナー、そして現在位置を計測する3台のGPS(全地球測位システム)装置を搭載。時速60km程度で走りながら、周囲360度、左右20m、高さ20mの範囲の3次元形状を計測できる。クルマと搭載している計測システムとを合わせて、「MMS」(モービル・マッピング・システム)という。今回使用したのは三菱電機が開発したもので「三菱MMS」と呼ばれるものだ。アイサンテクノロジーが所有している。

被災地の道路周辺を計測した「三菱MMS」の車両。屋根の上にはカメラ6台、3次元レーザースキャナー4台、GPS装置3台を搭載(写真:アイサンテクノロジー)

液状化によるマンホールの浮き上がりも計測

 前後に2台ずつ搭載した3次元レーザースキャナーは、“弾幕”を張るように周辺の道路やがれきに向かって毎秒5万7000回のレーザー光を照射し、表面の3次元座標を、距離20m以内の空間のレーザー点精度として、絶対正確度±10cm以内、相対正確度±1cm(ただし、GPS衛星が可視状態のとき)で計測できる。クルマが通った周囲約20mの空間は、「点群」と呼ばれる3次元座標を持った膨大なデータとして記録される。

 「自治体から発注された被災地のコンサルタントからの依頼で、液状化や沈下などによる道路の変状やがれきの分布などを計測する業務だった。それ以外の地域も、当社独自で高速自動車道などを計測した。その延長は約100kmにも及んだ」とアイサンテクノロジープロダクトソリューション事業本部の佐藤直人部長代理は語る。

通行止めの道路の計測(写真:アイサンテクノロジー)

道ばたのがれきの形状も正確に記録(写真:アイサンテクノロジー)

石巻市内の状況を計測した点群データ(上)と現場の写真(下)。水色の部分はレーザー光が照射された点の跡をイメージ化したもの(資料:アイサンテクノロジー)

石巻市内の別の場所を計測した点群データ(上)と現場の写真(下)。電柱や電線なども詳細に記録されている(資料:アイサンテクノロジー)

 MMSのメリットは計測のスピードだ。道路の高低差やマンホールの浮き上がりなどをまるごとデータとして記録。その点群データをパソコンに読み込んで路面の状況を3次元モデル化し、平面図や縦断図などを素早く作れる。

 「マンホールの浮き上がり高さも点群データから簡単に割り出せる。点群データを関係者間で共有することで、現場で行っていた作業を室内で手分けして進められる。その結果、被害の把握は効率的になるので、復興計画の作成もスピードアップできるだろう」(佐藤氏)。