「仮設住宅を2週間で設計せよ」──東日本大震災の被災地のある県に仮設住宅500棟を建設するプロジェクトにかかわるペーパレススタジオジャパン(本社:福岡市中央区)の課題は、約2週間という短期間で要求仕様に合った仮設住宅の設計を完了することだった。

 この仮設住宅には、「1mの積雪に耐える」という条件がある。4月6日にプロジェクトに着手した同社は、2週間でこの条件をクリアした設計を行う必要があった。そこでコンピューター上に「デジタルモックアップ」という仮設住宅のモデルを構築し、FEM(有限要素法)解析により積雪1mの荷重に耐えられる強度を持つかどうかを検証する計画だ。

デジタルモックアップで強度を検証

 「限られた時間で仮設住宅を提供するために、試作品を作って実験することは難しい。そこでデジタルモックアップによる解析を採用した」とペーパレススタジオジャパンの勝目高行代表取締役は語る。同社は日ごろから特注家具などをBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の手法で設計し、海外の提携工場で生産。それを日本国内の現場に供給する事業を展開している。

 この仮設住宅は、規格化した部材を使い、被災者の家族構成など現地のニーズに合わせて間取りなどを変更できるようにした。勝目氏は「今回の震災では、大量の仮設住宅が建設されることになる。そのため、仮設住宅としての使用が終わった後に、部材をリサイクルできることを考えたプランにしていきたい」と語っている。部材は台湾の工場で生産し、建設地点に輸送することになっている。

応急仮設住宅の設計図。これを基にFEM解析で積雪1mに耐えられるかを検証する(資料:ペーパレススタジオジャパン)

ペーパレススタジオジャパンの勝目高行代表取締役(右から2人目)。2010年に撮影(写真:家入龍太)

 「打ち合わせの時間を短縮するため、施工時にはタブレット端末の『iPad』を使って設計変更ができるようにしたい」と勝目氏は言う。各部材をBIM用のモデルとして提供。そのモデルデータをiPad上で仮想的に組み立てながらニーズに合った建物にできるようにする計画だ。そのため、iPad用の設計ソフト開発にも取り組んでいる。

 ITを活用して現場への資材輸送や建設作業をスムーズに行う方法についても検討している。「500棟分の資材は40フィートコンテナ120台分になるため、自社で開発したBIMモデルと連動する受発注システムや物流管理システムを稼働させる予定だ。また、被災地の雇用創出のため、震災被災者の作業員が施工しやすいこと、という発注要件があるので、分かりやすい組み立てマニュアルが必要となる。そのため、iPadで見ることができる3Dマニュアルを作成する予定だ。さらに拡張現実感(AR)の技術を活用し、iPad上で現場での建物レイアウトを確認できる機能も搭載したい」(勝目氏)。