BIMによる被災地支援方法を提案

 それから約1年後の2011年3月11日に東日本大震災が発生。オーヌマ氏はテレビのニュースを食い入るように見つめていた。オーヌマ氏の心には、被災地の復興支援を行いたいという気持ちに再度、火がついた。

 さっそくオーヌマ氏は、BIMの設計手法を使い、1日足らずでドーム型住宅を数十棟設置した仮設村のプランを作った。村には寝室のほか、キッチンやダイニングルーム、トイレなどを備えている。

 ハイチとの違いは、“机上の空論”で終わらず、実現可能なプランを目指したことだ。計画に使用したドーム型のプレハブ建物はインター・シェルター社(Intershelter。本社:米国アラスカ州ジュノー市)が開発したものだ。普通の人でも数時間で組み立てられ、一つのコンテナで十数棟分を運べる。強風や地震にも耐える強固な造りで、頑丈なドアが付いている。

 建設地点は被災地の要望を聞いてから決める必要があるが、今回はグーグルアース上でグラウンドやゴルフ場などの広い場所を探し、宮城県多賀城市内に配置するプランを作成した。この時点では仮設村の建設に適した場所についての情報はなかったので、一例として同市に設置するプランを作成した。

 その後、仙台市にある東北工業大学工学部建築学科准教授の許雷氏とコンタクトを取り、同氏のアドバイスを求めながら、より実現性の高い建設地点を探している。

グーグルアース上に配置した仮設村(上段)。仮設村の建物配置の例(中段)。キッチンやトイレ、寝室などの平面図(下段)(Photo: Courtesy of Kimon Onuma, Google)

 現場を見たこともない建築家が復興プランを作ることについては、違和感を抱く人も多いだろう。オーヌマ氏自身も「土地の実情に詳しい地域住民に相談することもなく、短時間で作ったプラン」ということを認めている。

 同氏が今回の復興計画を作りながら考えたことは、BIMを使って被災地の復興を支援する際に、他の建築家が参加できるようにする仕組みを作ることだった。

 「まず仮設村の“原型”となるBIMモデルを作り、ネットを通じて公開する。そのモデルを編集できる仕組みを作っておけば、海外の設計者や技術者などが復興計画作りに参加できる。そして専門的な助言を行ったり、新しい場所に仮設村を設計したりすることもできるのではないか。原型となるBIMモデルに仮設村の基本的な機能を盛り込んでおくことで、モデル全体を“コピー・アンド・ペースト”して必要な場所に移動し、その土地に適した位置や配置に編集する。こうすることで計画が素早く作成でき、仮設建物の搬入もスピーディーに行えるだろう」(オーヌマ氏)。

 オーヌマ氏は仮設村の建設に必要な資材の数量やコストを試算できる表計算ソフトの表も作り、実際の建設に必要な情報を盛り込むために模索を続けている。

キモン・オーヌマ氏がネット上で入力できるように設けた数量表(Image: Courtesy of Kimon Onuma, Google)