「リョウタ、君や家族は大丈夫だったのか」──東日本大震災のショッキングな被災映像は、海外でも大々的に報道された。それを見た米国やニュージーランド、ハンガリーなどにいる知人から、安否確認のメールや、ツイッターのメッセージが何件も送られてきた。

支援したい設計者や技術者をどう生かすか

 米国連邦調達庁(GSA)での建物の新設、維持管理におけるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用に取り組み、現在はスタンフォード大学で教べんをとるカルビン・カム氏からは「われわれは皆、地震や津波による被害や原発の事故に対して深く悲しんでいる。もし、米国にいるわれわれができることがあれば知らせてほしい」というメールが来た。

 日本を応援するメッセージは、海外の建設関係サイトにも掲載された。遠い日本の惨状をテレビやネットで見ながら、「自分の力で日本をなんとか支援したい、しかしどうやったらいいのか分からない」と思う海外の建築家や技術者のはがゆさが伝わってくるようだった。

 被災地における建設関係のニーズと、支援する気持ちを持つ設計者や技術者。これらのニーズとシーズをマッチさせるうまい方法はないものだろうか。この課題に取り組んでいるのが、米国カリフォルニア州の建築家、キモン・オーヌマ氏だ。

 オーヌマ氏は、コンピューター上に建物の3次元モデルを構築して設計する「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」の手法を使って1~2日で建物を設計する仮想国際コンペ「BIMストーム(BIMStorm)」の創始者として知られる。仮想コンペでは設計者がネット上でコラボレーションすることにより、それまでは数週間かかるのが常識だった建築設計のスピードが飛躍的に高まることを実証した。

 2010年1月、ハイチが直下型地震の大被害に見舞われたとき、オーヌマ氏のもとにはBIMStormの手法を使って、復興支援ができないかという熱狂的な声が集まり、その声に押される形で「プラン・ハイチ(Plan Haiti)」というプロジェクトをネット上で行った。

 2010年2月に「BIMストームの手法でハイチが抱える問題を解決しよう」とネット上でオーヌマ氏が世界中の建築設計者、技術者などの建設関係者に呼びかけたところ200人を超える賛同者が集まった。

キモン・オーヌマ氏(上段左)とプラン・ハイチで作成した復興用建物の平面図(上段右)、建物の配置計画(下段)(Photo and images: Courtesy of Kimon Onuma, Google)

 そして、「ウェビナー」というネットセミナーの手法を使ってバーチャルな“国際会議”を開いた。その場ではハイチからの被害状況を共有するとともに、被害の復旧から元通りのまちに戻るまでの過程で多目的に使える建物のプランなどを講師役の設計者が解説した。

 ハイチが抱える問題を世界中の建設関係者と共有し、復興過程のイメージをBIMによって示すことができたが、オーヌマ氏には満足できるものではなかった。“ボランティア”となる設計者が双方向で参加できる仕組みまでは作れなかったため、通常のセミナーの講師と受講者という関係性しか構築できなかったからだ。