スマートグリッドとは、従来の送電網にITを組み込み、電力を制御することで効率よく供給する仕組みのことである。米国発の概念であり、「次世代送電網」と訳される。事務所や家庭にスマートメーター(通信機能などを持つ電気メーター)を取り付け、メーターごとの電力使用状況を計測できるようにする。これにより、電力会社は検針を無人化してコストを削減できる。

 さらに、無線通信などによって、事務所や家庭で使われている家電などの電力使用量を把握したり、制御したりすることもできる。加えて、ソーラーパネルなどの自家発電施設の発電量のデータを電力会社へ送信できるようにすれば、電力会社では電力に関するすべての情報をコントロール可能となる。このようにしてスマートグリッドは、ITによって無駄な電力の使用を減らして省エネにつなげることができ、結果として電気料金も安くなるとされている。

 今後、環境対策の一環として太陽光発電や風力発電を普及させるにあたっても、スマートグリッドは重要である。天候に左右される自然エネルギーによる電力と従来型の電力とを、ITを使って全体最適化できるようになれば、環境への貢献は多大なものとなるからだ。

(資料:筆者作成)

 スマートグリッドの実証実験などの取り組みは、米国、欧州で先行しているが、日本でも電力会社などによる研究や試験導入が始まっている。2011年2月3日の日本経済新聞によると、電力各社では、スマートメーターを2012年度中に全国約100万世帯に設置し、2020年をメドに約5000万世帯に普及させる計画である。

 電気料金が安くなるとされているスマートメーターだが、逆に電力会社の設備投資コストが電気料金に反映され、電力料金が上がることも考えられる。このため、ユーザーメリットが見えてこないと、消費者からの反発も予想される。また、データの提供範囲によってはプライバシーにかかわる問題やセキュリテイ対策の必要が出てくる。

 将来は、例えばスマートフォン(高機能携帯電話)に電力消費状況を知らせて、電力需要の余裕時に掃除機や洗濯機を使った場合に電気料金を割り引くといったサービスへとつなげることも考えられる。2011年1月24日のNHKクローズアップ現代(「飛び出せ、『異能』!~日本の閉塞感を打ち破れ~」)では、消費電力の測定装置と無線機能を持ち、携帯電話などから電源のオン・オフができる「節電ソケット」を紹介していた。このように電力量値の計測と連動して家電をリモートコントロールできる技術は実用化されつつある。スマートメーターを使った、新しい価値を持つビジネスモデルの創造が期待される。

 低炭素型住宅「スマートハウス」の研究開発も進められている。その中核技術がHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)である。家電や情報機器などから有線や無線でデータを収集し、電力使用状況を把握して家電などを自動制御し、省エネ運転を行うものである。さらに、太陽光発電システムや蓄電池などと組み合わせてCO2排出量の大幅削減を図る。太陽光発電で生み出した電力を家庭用蓄電池に蓄電し、電気自動車に充電することも、スマートグリッドの研究の一環として進められている。

(資料:筆者作成)

 スマートグリッドの考え方によるインフラに基づいた街づくりをスマートシティーという。厳密な定義はないが、都市全体を省エネ型にする考えである。日本のゼネコンでもスマートシティーに関する研究開発が行われている。対象地域の環境分析を行い、太陽光発電や風力発電装置の場所を検討してエネルギー計画を行い、消費電力やCO2排出量が少なくなるように都市計画を行うシステムが開発されている。太陽光や地中熱などの自然エネルギーを調達してエネルギー消費量をゼロにする建物を建設する事業や、電気自動車の駐車場整備など省エネ型のインフラを整備する開発事業が具体的に進められている。

 また、日本の民間企業・団体と経済産業省が連携し、官民による協議会「スマートコミュニティ・アライアンス」が活動を行っている。スマートコミュニティー(環境配慮型都市。スマートシティーとほぼ同義)を一貫(設計・調達・運営・管理)して展開する事業の輸出を推進している。

(資料:筆者作成)

 以上がスマートグリッド、スマートハウス、スマートシティーの概要である。消費者のメリットを確実なものとすることに加え、関連する技術の標準化(例えばスマートメーターと家電との通信規格の統一)など課題も多くあるが、環境エネルギー革命ともいえるその取り組みの意義は大きい。建設企業においてはスマートグリッドにおける送電網などの建設、スマートハウスにおいてはHEMSが内蔵された住宅供給など、スマートシティーでは新しい視点での都市の再開発などの新市場が期待できる。

執筆:東建IT研究会
「建設会社の利益に結びつくITの研究及び支援」を目的に、東京建設業協会内に2004年5月14日に設立した研究会。月1回の定例会議で、講習会の企画・開催、意見交換会、調査・研究、教育プログラム策定などの活動を行っている。
▼東建IT研究会のウェブサイト
http://token.or.jp/itlab/