AR(Augmented Reality:拡張現実)とは、コンピュータが作り出した仮想的な物体などのデジタル情報を、現実環境の位置情報や特定の模様などを認識して、そこに重ね合わせて表示する技術のこと。類義語として「VR(Virtual Reality:仮想現実)」がある。VRはすべてがコンピュータなどで作り出された仮想世界をつくる技術のことを指す。

 ARは、iPhoneやAndroidなどスマートフォン上で動作するソフトウエア「セカイカメラ」によって一般的な認知が広がった。

 「セカイカメラ」は、スマートフォンなどに搭載されているGPS機能やコンパス機能を用いて、現在位置やスマートフォンのカメラの向いている方向を判断し、画面に映し出された場所に関する情報(エアタグ)を宙に浮いているかのように表示するアプリケーションだ。エアタグを叩くとさらに詳しい情報を閲覧することができる。

「セカイカメラ」画面例。岐阜県が「ぎふ清流国体/ぎふ清流大会」の情報を提供しているところ。県内市町村の役所庁舎にエアタグとしてマスコットキャラクターが現れる。それを叩くと詳細情報を見ることができる(資料:岐阜県)

 「セカイカメラ」以外でも、ARは広く活用が進んでいる。スマートフォン向けのアプリケーション・ソフトを使用し、カメラを商品に向けると、商品のロゴやバーコードなどを判別し、キャラクターが登場する宣伝などが代表例だ。動きはもちろん、音声も再生可能なため、鳴き声や解説などを提供することもできる。

建設業でのAR活用は?

 建設業では、近いうちに下記のようなARの事例が登場することだろう。

  • 大規模な造成地や区画整理などの現場で、未着手時に建物も含めた完成形を仮想表示することにより、ユーザーに完成時の雰囲気を理解してもらう。カメラを動かせば、CGで描かれた仮想物も動き、景色にとけ込んでいるため、完成形を一目瞭然でイメージできる。さらに、CGで描かれた仮想物には時間軸を持たせることも可能なため、施工段階での進捗も確認することができる。
  • 肉眼では確認できない空間、例えば地下にある埋設物を仮想表示できるようにする。現場でカメラを向けて埋設物の有無を確認することができれば、掘削時などに、台帳などを確認することなく埋設物を立体的に確認できるため、大幅な省力化が可能となる。
  • 既設構造物にカメラをかざすと、内部にある鉄筋の設計図面を仮想表示して鉄筋の位置を知ることができる。また補修の履歴やクラックなど変状の履歴をデータベース化することにより、その個所での様々な情報を知ることができる。

 GPSの精度向上や各種技術の進歩が必要だが、スマートフォンのような電子野帳を現場に向けることにより、完成形の景色がARやVRとして表示される日は近いだろう。構造物を構築する際は、丁張りや測量・計測などを一切必要とせず、現状と完成形のARを照らし合わせながら作業することになるかもしれない。

執筆:東建IT研究会
「建設会社の利益に結びつくITの研究及び支援」を目的に、東京建設業協会内に2004年5月14日に設立した研究会。月1回の定例会議で、講習会の企画・開催、意見交換会、調査・研究、教育プログラム策定などの活動を行っている。
▼東建IT研究会のウェブサイト
http://token.or.jp/itlab/