サーバー仮想化とは、一台の物理的なサーバーを、複数台の仮想的なサーバーに分割しているかのように割り振って動作させ、それぞれの仮想サーバーに別々のOSを同時に稼働させる技術である。

「サーバー仮想化」のイメージ図
「サーバー仮想化」のイメージ図

 サーバー仮想化のメリットとしては、以下の点が挙げられる。

ハードウエアリソースの最適化

 複数台のサーバーがある場合、すべてのサーバーがCPUやメモリを常時100%使い切ることはない。そこで、これらのサーバーを仮想化することにより、各サーバーの特性に合ったリソースを必要なだけ割り当てることが可能となる。

 新規システムを導入する際の作業期間も短縮できる。新規システムを導入するには、新規サーバーの選定、購入、OSのインストール、AP(アプリケーション)構築といった作業が必要であり、稼働までに最短でも1カ月程度はかかる。これが、仮想化システムが導入済みのサーバーでリソースに余裕があれば、サーバーの選定、新規購入をしなくても済む。新規サーバーが納品されるまでは、通常2~3週間必要だが、仮想環境ではこの納期待ちの時間が不要だ。このため、新規稼働システムのインフラ設計(CPU数やHDD容量等)が完了していれば、2~3日もあれば仮想サーバー上でシステムを稼働させることが可能となる。

ハードウエアに依存しない

 サーバーのハードウエアが老朽化し、新しいハードウエアにシステムを移行する場合、新旧のサーバーでは、内蔵のマザーボードや、ハードディスク等のハード部品が異なり、各ハードを制御するためのソフトも全く違う。部品によっては、古いOSには対応していないものもある。そのため、単純にシステムをバックアップしてリストアしさえすれば動くということはまずあり得ない。新規構築と同じ作業が発生するのが通常である。

 仮想サーバーに移行する場合は、コンバートツールを利用し、仮想ハードに対応した制御ソフトに変換しながら移行するので、全く別のハードウエア上にOSごと稼働環境を移動することができる。このため、メーカ保守が切れている古いハードのWindows2000上で動作しているアプリケーションで新規構築が困難な場合でも、仮想化によりハードウエアの問題は解決し、アプリケーションの延命が可能となる。

 実際には、OSのサポートが終了しているので、セキュリティパッチが提供されない問題は残るが、現状の状態でのシステム維持は可能となる。

開発環境テストが容易

 物理サーバー上でOSのパッチ当てやバージョンアップ等の動作検証をする場合、別の開発環境サーバー上でまずは動作確認をする必要がある。これが仮想サーバーであれば、OS全体をファイルとして格納しているので、別の仮想サーバーにOS全体を簡単にコピーして、複製を作成することが可能であり、Windows2000から2003へのバージョンアップテスト等も気軽に行える。

コスト及び運用負荷低減

 複数台のサーバーを1台のサーバーに集約するため、サーバー設置スペースを減らすことができ、必要な電力も少なくなる。また、サーバーの総台数が減るので運用負荷も低減できる。

 サーバー仮想化の際の注意点としては、仮想化することにより、1台の仮想サーバーの停止が他のサーバー停止につながる可能性があることだ。このため、構築時には冗長構成を必ず取る必要がある。

 仮想化ソフトによっては、障害時には、別サーバーへ自動的に仮想サーバーを移動して処理を継続する機能がある。導入時にはこの機能に対応したシステムの導入を推奨するが、ソフトウエアのエディションによっては、機能が利用できない場合もあるので確認が必要である。

 また、サーバー仮想化によって、新規サーバーを容易に構築できるようになるため、サーバーOSやアプリケーションソフトのライセンス違反が発生しやすくなる点も要注意だ。ソフトメーカーによっては仮想サーバー上のライセンスに対する考えが違うので確認しておく必要がある。

 例えばwindowsサーバーの場合、Enterprise Editionでは、物理サーバー1ライセンスに対して4つの仮想ライセンスがあり、Datacenter Editionでは、無制限の仮想ライセンスになる*

* 詳細はマイクロソフトのウェブサイトを参照

導入事例――中堅ゼネコンA社の場合

 中堅ゼネコンA社の導入事例として、レガシーサーバーの延命、コスト削減、開発テスト環境の柔軟な構築を目的とした仮想化の事例を挙げる。

 A社では、メーカ保守の切れた古いサーバー上で稼働している基幹システムが複数台存在し、ハードウエア障害時の対応が危惧されていた。また、古いOSの為、新規サーバーでの動作が保証されてなく、新規サーバーでの構築は困難であった。しかし、導入した仮想サーバーソフトでは古いOSの動作が保証されており、移行ツールを使用して現状の構成のまま簡単に仮想サーバーへ変換(P2V:Physical to Virtual)することができた。

 現状では、4台のサーバーコンピュータ上で約40台の仮想サーバーが稼働しており、各サーバーを物理サーバー上で構築する場合に比べ、大幅なコスト削減が実現されている。さらに、既存システムの構成変更には事前検証やパッチ当て、新規ソフトの導入テスト等が簡単に実施できるようになった。

 ハード/ソフトの技術革新により、1台のサーバー上で動作できる仮想サーバー数も増加傾向にある。また、サーバー上でクラインアント用の仮想デスクトップを複数構築するソフトもある。将来的には、盗難の危険やセキュリティ確保が難しい作業所でも、パソコン等の物理的な情報資産を配置せず、仮想サーバー上の専用仮想デスクトップ環境を構築して支店内と同等の作業ができるようになるかもしれない。

 A社では、作業所からの社内システムへのアクセスについては、今のところセキュリティ確保の問題から制限をしている。例えば、支店内からは共有のファイルサーバーにアクセスできるが、作業所からはアクセスできない。また、作業所からは稼働できないようにしているシステムもある。作業所で仮想デスクトップ環境に接続して業務を行うことが可能になれば、このような制限は不要となる。

執筆:東建IT研究会
「建設会社の利益に結びつくITの研究及び支援」を目的に、東京建設業協会内に2004年5月14日に設立した研究会。月1回の定例会議で、講習会の企画・開催、意見交換会、調査・研究、教育プログラム策定などの活動を行っている。
▼東建IT研究会のウェブサイト
http://token.or.jp/itlab/