初出:「日経コンストラクション」2008年6月13日号
* 記事は原則執筆時の情報に基づいています。初出から2年が経過していますが、現在でも電子納品の基礎知識についての情報ニーズが高いことから、ケンプラッツで再掲載します(全12回・隔週木曜掲載予定)


 国土交通省の電子納品に関するサイトに、2008年3月24日に開催された第1回CALS/EC推進本部作業部会に関する資料が同年5月8日付で掲載された。議事録をはじめとする作業部会の配布資料をダウンロードすることができる。その資料のなかで、電子納品の課題として4項目が挙げられている。

 それらの内容は、下の一覧の通りだ。電子と紙の二重納品や、せっかく納品された電子データが活用されていない点などを指摘している。

電子納品に関する主な課題
(1)電子と紙の二重納品が常態化している
(2)電子納品されたデータがすべて将来的に利活用されるかどうかが疑問
(3)設計段階でCADデータなどで提出された図面が、工事発注などの際に活用されていない。あるいは、CADデータ交換標準として定められいるSXFのほか、別の形式でも納品されることがある
(4)最終的な検査が紙ベースで行われることから、紙での納品を余儀なくされる


国土交通省の電子納品に関するサイト。URLはhttp://www.cals-ed.go.jp/


 こういった課題を解決するため、電子成果品の簡素化など、電子納品の運用の見直しが始まっている。

2009年から要領と基準を改定

 国土交通省は2008年5月29日、「工事完成図書の電子納品要領」と「土木設計業務等の電子納品要領」、「デジタル写真管理情報基準」、「CAD製図基準」を改定すると発表した。いずれも、2009年1月以降に契約を締結する直轄工事や業務から適用を始める。それぞれの要領や基準は、国土交通省の電子納品に関するサイトからダウンロードできる。

 大きな変更点の一つが、デジタル写真管理情報基準で「提出頻度写真」の項目を追加し、「代表写真」項目への記入を必須としたことだ。

 提出頻度写真は、撮影個所一覧表の提出頻度に基づく写真かどうかの区分だ。この項目により、必要な写真が納品されているかどうかが容易に確認できるようになる。

 代表写真は従来からある項目で、施工の様子などがわかる代表的な写真のことだ。いまは提出頻度写真を代表写真とすると定められている。しかし、任意記入なのであまり活用されていない。

 写真撮影にデジタルカメラを使うのが一般的になったために、撮影枚数も以前に比べて増大する傾向にある。撮影した写真を取捨選択せずに、すべてを納品してしまうケースも少なくない。写真が大量にあると、工事検査の際に必要な写真を探すのに手間取ってしまう。

 代表写真であるかどうかの情報を個々の写真データに付加することで、代表写真だけを選んで一覧表示できるようになる。代表写真だけを抜き出して工事写真台帳を作成することも可能だ。この項目を活用すれば、納品された工事写真が大量にある場合でも効率よく確認できる。

 代表写真や提出頻度写真の項目を記入していく作業を通じて写真を取捨選択し、不要な写真の納品を抑制するように受注者は心がけてほしい。

関東地整では二重納品を禁止

 地方整備局独自の動きもある。関東地方整備局では、発注者の監督・検査と受注者の業務の効率化や工事書類の簡素化を目的として、「土木工事書類作成マニュアル」を公開し、2008年5月から運用を始めている。

 マニュアルでは、電子納品に関する簡素化にも触れている。せっかく電子データで納品しているのに、紙にプリントしたものも提出するケースが後を絶たないからだ。

 さらに、同整備局では、電子と紙の二重納品の禁止などをうたった「電子納品に関する手引き」を2008年4月24日に公表した。工事写真書類と参考図、完成図面、道路施設基本データの4項目については、必ず電子納品の対象とすることにした。ほかの提出物は発注者と受注者との間で協議して決める。

 打ち合わせ簿と施工計画書は元のファイルだけでなく、PDFファイルでも納品できるようになった。ここで注意しなくてはいけない点は、スキャンしたものは不可であることだ。紙にプリントされたものをスキャナーで読み取って作成したPDFではいけない。

 必ず、ワープロソフトや表計算ソフトなどで作成した元のファイルを使って、直接PDFに変換したもので提出する。

 まだ一部で見直しが始まった段階だが、これらのマニュアルや手引きを参考に事前協議を実施することで、各現場の課題を改善してほしい。